ヒット カウンタ

平成15年夏期合宿の10人組手 その1

今年の合宿は山中湖で行ったのであるが、おりしも台風15号の接近で大変な豪雨に見舞われてしまった。
これでせっかく山中湖で行った意味もなくなってしまったのであるが、たった一つ良かった点がある。

それは、気温である。
この日は何と外気温が摂氏10度という低温になったのである。

じっとしていたらそれこそ震えが来るほどの寒さである。
とても夏季合宿なんて言える温度ではないのである。

しかし、この気温は10人組手の実践者にとっては味方だ。
いつもは、炎天下の灼熱の道場で行われるのを恒例とする夏期合宿である。

それが、今年元々涼しい場所である山中湖にこの異常気象が重なって普通では有り得ないような好条件を提供してくれたのだ。

と言っても、今年の挑戦者にとって幸運だったのはこれだけである。
今年は、初めて開設した世田谷、目黒道場と合同での合宿だったので参加者が例年の倍近い人数となった。

しかも、どういうわけか、茶帯、緑帯クラスの参加者が少なく、黒帯のほうが多い。
それと、帯は白であるが、他流派の段位を持っている実力者も何人かいる。

10人組手は通常は同クラスの者を主体として組み合わせ、終盤に黒帯を配置するというのを常としているのだが、今回は参加者の顔ぶれから、この恒例をまもることができなくなった。

それで、多数の黒帯と他流派の黒帯、それと白帯の中から挑戦希望者を募って組み合わせを行った。
最初は遠慮していた白帯も、数人が手を挙げるとあっというまに定員をオーバーしてしまい、オーバーした人にはじゃんけんで出場者を決めるようなハプニングまであった。

こうしてやる気満々の白帯と圧倒的な破壊力を持つ黒帯、それに少数の緑、茶の実力者という過酷な対戦者達のチームで出来上がったのである。

ちなみに、今回合宿に参加した白帯の他流派経験者は、和道流2段のKi君、少林寺拳法2段のKawa君、同じく初段のNa君らがいる。(今回合宿の参加者の黒帯にも、生粋の現空研空手の有段者の他l正道会館、芦原空手、大道塾ら他流派の経験者もいる。)

10人組手最初の挑戦者はKita君だ。
Kita君は職業はレントゲン技師である。

中肉中背で決して体力に恵まれているほうではない。
現空研でも今までそれほど目立つ存在ではなかったが、自分のペースを守りながら着実に実力をつけてきた。

彼の特長は外観には出ない意思の強さである。
この日のために道場での稽古だけでなく、計画的な筋力トレーニングとスタミナ強化のためのランニングを続けてきたということは夜の宴会の席で聞いた。

今回は最初の4人は自己申告の白帯が挑戦する。
最初の挑戦者はチョッコウ君である。

彼は、自分のホームページで自分の課題や生き様を紹介しているので、ご存知の方も多いであろう。
上達したとはいえまだまだ空手は未熟である。しかし名前のようにまっすぐ相手に向かっていく姿勢は将来性を感じさせる。

チョッコウ君は果敢に挑んではいるのだが、やはりキャリアの差は歴然としている。
Kita君は余裕を持ってチョッコウ君をさばき、審判は取らなかったが寸止めの顔面への回し蹴りを2本決める。

次の対戦はKasa君だ。
彼は体は細いのだけどなかなかセンスがよく、潜在力はある。しかし、やはり現時点でのキャリアの差はいかんともしがたくKita君は余裕の組手で彼をさばく。

3人目はSai君だ。
彼は小柄だけれど積極的で決して後ろに下がらない。
常に前に前に出て行くタイプだ。

しかし、攻撃型の人は相手を倒す確立は高いのだが、カウンターをもらうリスクも高くなる。
実力に差のあるKita君は、上段の回し蹴り技有りを2本とり、合わせ一本で彼を下した。

4人目はSue君だ。
彼は私と同じ九州の出身者で、小柄ではあるが性格の前向きさがそのまま組手にも現れている。
勇猛果敢に攻めていたが、Kita君は不十分ではあったが上段の回し蹴りを何発も決めて余裕の組手を行った。

5人目はKitasi君だ。
最初の強敵が現れた。

彼は現空研ではまだ白帯ではあるが和道流の2段を持つ猛者である。
伝統空手の特長である飛込みの素早さと和道の特長である組技のテクニックも持っている。

Kita君は前に出ていくがなかなか自分の距離をとることができない。
緊迫したにらみ合いが続くなか一瞬の隙をつかれ足払いを食ってしまう。

そしてここでものすごいハプニングが起きる。
Kitasi君が飛びこんで放った上段の回し蹴りを一瞬頭を引いて紙一重でKita君がかわした。

ように見えた。
しかしKitasi君の足は当たっていた。

当たったものは何とコンタクトレンズである。
幸運にも目には当たってないのであるが恐ろしいことである。

顔の前で空を切った足先は奇跡的にコンタクトレンズのみを吹っ飛ばしたのである。
その瞬間は私もはっきり視認した。

小さなしぶきのように見えたのはコンタクトレンズと涙だったのだ。
Kita君には何のダメージもなかった。

まさに奇跡としか言いようがない。
寸止めの極致ではあるが後数ミリ違っていればとんでもない事故になるところであった。

あらためて安全性の確認を注意して試合は再開された。
今まで余裕を持ってスタミナを温存してきたKita君であったが、だんだん思うように自分でペースを作れなくなってきた。

これが10人組手の恐さである。
組手は常に相手がいて、しかもその相手は全て個性が違うのだ。

ガンガン前に出てくるタイプもいれば、一瞬の隙を突くカウンター狙いもいる。
自分のペースをこうした異なる相手と対戦しながら組み立てなければならない。

力を温存しようと受身に回るとそこにつけこまれて一瞬にして敗北を喫することもある。
10人組手の難しさがここにある。

6人目は、本来緑帯のTa君が対戦予定者であったが、腕の故障のため急遽初段のSi君に代わってもらった。
Si君はかつてコラムで紹介した私の修猷館時代の同級生の息子だ。

身長は190Cmはある。
彼は、現空研で黒帯を取り、大学では一時フットボール部で活躍し他流派の道場にも顔を出して腕を磨いている強豪だ。

すでにスタミナをかなり使い果たしていたKita君にとってはタフな相手だった。
果敢に上段の回し蹴りを狙っていくが、長身のSi君に決めるのは難しい。

ついに強烈な前蹴りを見舞われてしまう。
苦痛に顔をゆがませ一瞬動きが止まってしまう。

ボデーのダメージはその後の動きを殺されてしまう。
今まで巧妙な体裁きでダメージを避けてきたKita君であったが、この回を最後に突き、蹴りをモロにもらうようになってくる。

何とかダウンは免れたが、相当の消耗をしていることは傍目にもはっきりとわかるようになった。

7人目の相手はHa君である。
彼は白帯ではあるが、たまたま昇級審査の直前にニュージーランドへ留学していて、審査の機会を失って白帯のままではあるが、実力としては十分色帯クラスである。
長身の彼の攻撃は正攻法であり、Kita君は情け容赦ない突き蹴りの攻撃を嵐のごとく受けた。

8人目はパンチである。
彼は会員からのメッセージで自己紹介している。

ボクシングの経験もあり突き蹴りのスピードでは現空研でもトップクラスである。
さすがにスタミナを消耗している中でこのスピードに対抗するのは難しい。

強烈な突きの連打に顔は苦痛にゆがむ。
しかし、この日のために鍛えた体は、半ば無意識の状況でも的確に反応している。

何とかパンチの攻撃をしのぐことができた。

9人目はコジコジである。
彼は、仕事の関係で地方に転勤したのであるが新幹線で道場に通ったこともある根っからの空手マンである。
性格は穏やかであるが、180Cmを超える長身から繰り出す回し蹴りや打ち下ろすような正拳は威力万点である。

彼は、性格の優しさから自分では意識してなかったと思うが、少し脱力した楽な突き、蹴りをこのやっと立っていて完遂を目前にした挑戦者に出していたようである。

しかし、これは打たれるほうにとっては逆効果になることがある。
脱力しスムースに出す突き蹴りは本人の意思とは逆により重い突き蹴りとなってしまうとパラドックスが存在することは私が常に言っていることである。

Kita君は、もはや自分の意識とは違った本能で戦っているように見えた。
しかし、最後に長身のコジコジの顔面に上段の回し蹴りを放ったのは彼の意地でもあったろう。

最後10人目は治安を担当する公務員のあだ名がロボコップのNi3段だ。
彼は、どんな相手でも手を抜くのは失礼だという意識があるのかもしれない。

稽古の時や弱い者、初心者には、大変やさしいのであるが、一旦試合となると、極めて冷徹に真面目な組手を行う。
倒しにかかるという組手ではないが、一切の妥協のない組手を淡々と進める。

しかし、Kita君は最後の気力を振り絞ってこの大敵に果敢に立ち向かった。
殆ど残っていないと思われる体力の限りを尽くして突き、蹴りの連打を見舞った。

しかしNi3段の一瞬の隙をねらった容赦ない前蹴りが中段に突き刺さる。
おそらく彼を立たせていたのは絶対倒れるものかという意地と精神力だけであったろう。

彼は立ちつづけ、審判の「そこまで」という声を聞いた。
回りから嵐のような拍手が起きた。

Kita君10人組手完遂。 

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