ヒット カウンタ

チョッコウ君

去年の暮れだったか、今年の初めだったか忘れたが一人の青年からメールをもらった。
喘息を克服するためがんばっているが、現空研で空手をやることが可能かどうかという問い合わせだった。

私の父方の祖母が長い間喘息を患っていて小学生の頃同居したこともあるので喘息がどういう病気であるのかというのは大体分かってはいる。
しかし、一口に喘息といっても人によってレベルはまちまちだろうし、その病理学的な知識は私にはまったくない。

したがって、まず専門医の意見を聞いて欲しい、といった返事をしたことを覚えている。
ちょっと残念そうな、しかし自主トレーニングで体を鍛え医者のお墨付きをもらってまたチャレンジさせて下さい、といった返事をもらった。

数ヶ月して彼は意を決して、我孫子道場に見学に来た。
しかしその日は丁度昇段審査の10人組手の行われる日だった。(通常は審査の日は見学をお断りしている)

最初の見学が10人組手とはちょっと刺激が強すぎるかなと思った。
普段稽古で組手を見慣れている者でも、試合とか審査といった真剣勝負の場面は普段と違った張り詰めた空気があり、お互いの気迫が実際以上に荒々しく感じさせることもある。

チョッコウ君は翌月から開設予定の世田谷道場に体験入門させてください、と言って帰っていった。
私は、もしかしたらもう来ないかなとも思った。

かつて拳誠会の頃、ブルースリーの映画が大ヒットし、その影響か毎日のごとく入門者がおしよせた時期がある。
しかし、組手の現場を目撃すると次の稽古に来るものはほんの僅かだった。

当時は私も若かったし、既存の空手に対して批判的でもあり、現在のように確固とした思想や稽古に対する方法論も確立していなかった。
そして、ついてくるやつだけついてくれば良い、といった感情が無かったと言えば嘘になる。

しかし、ご存知のように現空研は空手というものを人生の中に組み込み、社会人としての武道の追求といった視点を確立している。
したがって稽古は安全性を重視したうえで伝統を守りつつもより合理的かつ効率的な方法を探究している。

だから普段の稽古は、それなりにハードではあっても身の危険を感じるようなことはないはずだ。
サポーター類の着用や顔面への寸止めなど怪我を防ぐ工夫も怠り無い。

とはいえ、やはり試合や審査となると、フルコンタクトで互いが全力を尽くすわけだからいやでも迫力はでるし、格闘技が初めての人にとってはある種の恐怖感にも似た感情を持っても不思議ではない。

チョッコウ君は運悪くこのガチンコの組手が初めて接する格闘技経験となった。
いや運悪くだったのか運良くだったのかは、今後の彼の決断で決まることだ。

そしてしばらくして世田谷道場を開設してまもなく、彼チョッコウ君は元気な姿を見せてくれた。
そしてまもなく開設した目黒道場にも。

最初はかなりしんどそうだったが、幸い世田谷、目黒道場は新規に入門した人が多い。
中には他流派で段位を持っている猛者も何人か入門してきたけれど、我孫子道場に比べれば、やはり初心者が圧倒的に多い。
そして、次々と新しい人が入ってくる。

そういった中でチョッコウ君は、だんだん空手にも慣れてきて自分のペースでハードなメニューも余裕でこなせるようになってきた。

現空研は、突き蹴りといった打撃系の技は勿論のこと、関節技や絞め技も覚えなければならないので、そのメニューの全てを獲得するのはそれなりに時間がかかる。

しかし、チョッコウ君は世田谷、目黒の道場はほとんど皆勤に近い出席率で確実に進歩している。
「目的を持った者は全てに耐えることができる」というこ言葉は彼のためにあるような感じがする。

といってもストイックな雰囲気はまったくなく、バイクにまたがっている姿を見ると本当に喘息なの、というよなごくごく普通の青年である。

彼、チョッコウ君は、本職はネットワーク屋さんでコンピュータはお手の物である。
彼は彼自身のホームページを開いている。

彼がどのようにして喘息に立ち向かっているか。
そして空手との出会い、これからの抱負などを淡々と語っている。

ぜひ、これからも頑張って欲しい。

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