平成14年夏季合宿 プロローグ
今回の夏季合宿は河口湖で行った。
最近海で行うことが続いたので気分を変えるため山に行こうということになったのだ。
行ってみて驚いたのは気温の低さだ。
いつも、夏季合宿の組み手は地獄の炎熱下で行うのが慣わしになっていた。
過去その過酷な環境での10人組み手が様々なドラマを生んできた。
しかし、今回は気温に関しての状況は大変快適だ。
私は今回はいつもより10人組み手の成功率は上がると考えた。
それで、少しハードルを高くするために幾つか条件を出すことにした。
しかし、この条件が結果として過酷であり、そこで繰り広げられたすばらしい組み手の感動とともに、私にとっても勉強させられる結果を生んだ。
その条件だが、
今回は参加者が多かった事、しかも黒帯が例年になく多かったことと10人組み手の挑戦者が3名いたことで、通常は茶帯クラスを主体とする対戦相手の半数近くを黒帯との対戦としたのである。
組み手のルールは、道場の設備などでいつも若干異なる。
畳があり、スプリング等の設備が整っている場合は、投げ、関節、絞め技全て可、というルールでやる事もある。(現行の黒帯の中では古株のタケオマンの10人組み手はこのような何でもありのルールで行われた。)
今回は、道場は衝撃吸収のラバーを使用しているということだったが、直感的に多少の危険性を感じた。
通常の稽古では十分な安全性だとは思うが、審査ということになれば、皆、アドレナリンが出まくった状態でどんなに自制を促しても、多少の行き過ぎが生じやすくなることは経験上分かっている。
私は、十分な安全なルール環境下で、しかし、100%の力を出し切って行う組み手をやって欲しかったので、今回は突き蹴りに限定した通常の空手ルールに近いやり方で行った。
今回の10人組み手チャレンジャーの若干の紹介をしておこう。
コジコジ 180cmを超える長身で靴のサイズは28Cm 新幹線で道場に通う怪物である。
でも気持ちもやさしく顔もとってもいい男、だと思う。
ダチョウハンター 初段のさか坊と同じ会社で、生意気で挨拶もろくにしないので合法的にやきを入れるために強引に道場に連れてきた、とはさか坊の酒盛りの席での談。
ちなみに前回4級を取った「忍者はっとり」さんは、同じ会社の二人の上司である。
この方はこの方で、一見平凡なおとうさん、会社の部長さんタイプで運動なんてまるでダメといったように見える。
それが組み手をやるとまるで人が変わったような豪快な組み手をやるのだ。
後から若い頃のスポーツ暦(バスケット)や身体能力(ジャンプ力その他の測定値)を聞いて納得したのだった。ほんとに人は見かけによらない。
しかしさか坊はこの上司の昇級審査のときは、何かうれしそうにボコボコにしていたな。
この会社の人間関係、よくわからん。
Tom インラインスケートで2年連続日本チャンピオンを取り、今年も活躍を続けているスポーツ万能の好青年である。
今回スケートの合宿と重なったが、空手の方を優先して10人組み手にチャレンジした。
彼は実はあるトラブルを隠したままこの過酷な挑戦に臨むのだがその壮大なドラマを演じた後、衝撃の事実があきらかになるのである。
この3人の組み手の詳細は、今後黒帯をめざす諸君にとって、心技体いづれの分野においても大いに参考になるであろうし、また武道を指導する立場の者にも考えさせられる多くの事があったので章をあらためて詳しく紹介することにする。
今回は参加者にユニークな人が多かった。
まず、夜空の星の事を語らせたらこの人の右に出るものはいない実力随一の「さすらいの酔っ払い」
その一派でやたらとある種の飲み屋に詳しい師範の「コバ」
極真会館の初段を持ち、先般当会で15人組み手を達成し2段を取得した「S」。
彼は体重90キロクラスの巨漢であるが、又割も前屈もペッタリの柔軟性の持ち主である。
そして、彼より一回り大きいごぞんじクラ初段。
彼は別の筋力トレーニングジムにも通ってパワーを増大している。
その大男のクラさんをもう一回り大きくしたジャイアン初段。
100k超級のK初段(彼はいつも自称98kg)は、総合系の格闘道場にも通う怪物だ。
でも顔はけっこうかわいいほうだ(クラさんと違って)とは本人の弁。
ベテランのサムライは奥さんと子供さんを連れて気合の参加。
そしてかつて10人組み手、10人組手その2で紹介した初段のバイミシ君とさか坊。
炎天下の九十九里の合宿で、なんでもありルールで初段を取ったタケオマン。
このタケオマンの中段の突きがTomの後の悲劇を生むことになる。
もとボクサーで初段の「パンチ」、彼はプロライセンスの試験で筆記試験で落ちたことがあるらしい、という噂があったけど、宴会の席上できっぱりと否定していた。
尊敬するプロボクサーの名前を書けという欄があり、漢字が書けないので「ガッツイシマツ」と書いたとか書かないとか。
現在職業がSEであり、私と同じ福岡の出身で高校はあのライバルの名門西南高校を出た彼が「ガッツ石松」や「ファイティング原田」を書けないはずがない。?
それから今回はプロボクサーがもう一人参加した。
彼「コマちゃん」は学生時代はアメフトをやっていたが社会人になってボクシングを始め、プロライセンスをとった。
現在は大手の商社マンだが、空手をやりたくて現空研に入門したのだ。
彼のストレートは速く威力があり、ボディーはフルコン顔面は寸止めというルールに慣れていない彼の上段突きはある意味対戦者にとって恐怖だろう。
今回の白帯は彼「コマちゃん」以外にも強い人が多くいた。
例えばTaさんはラグビーのフォワードをやっていて大変パワフルな人だ。
Kiさん、体操の選手だったそうだが、その身のこなしはとても武道が初めてだとは思えないほどのものだ。
この他、今最も勢いに乗っている緑帯、茶帯の精鋭たちが10人組み手の対戦者となってチャレンジャーに立ちはだかる。
現空研の場合、対戦者の方も審査対象になるので、手抜き等は一切ありえない。
こういった条件で今回の組手審査は実行されたのだ。
壮絶だけれど純粋で各自力を出し切った組手のドラマがこうして演じられたのだ。
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