平成15年10月22日コマちゃんは1級の審査で6人組手に挑戦した。
今回は、このコマちゃんを紹介しよう。
大手商社マンである彼は、慶応大学時代はアメフトで活躍し、社会人になってボクシングを始め、プロライセンスを取得する。
身長は179Cmで体重75Kgというバランスのとれた体格でパワーもスピードもある。
性格は一言で言えば単純明快で、強いてパターンを探せば、「さすらいの酔っ払い」の種族に属する。
酒豪である点も似ている。
後で紹介するエピソードで詳細を語る必要もないと思われるのでここではこれ以上の説明は省略。
彼の存在がひときわ目立ったのが、白帯で最初の昇級審査を受けた時だ。
河口湖での夏合宿の時だった。
この時特に目立った3人がいる。
大学、社会人とずっとラグビー選手だったTa君、元体操選手の外国籍のKi君、それにコマちゃんだ。
この3人は体格、体力、スピード皆揃っていて、しかも敢闘精神が人並みはずれていた。
審査でこの3人が互いに組手をしたときは回りから「オー」という歓声が上がったくらいだ。
白帯同士の組手でこんなに歓声のあがる組手というのはそうそうあるものではない。
それほど、この3人は目立ったのである。
Ta君は、その後元キックボクサーのコボちゃんの10人組手の時相手をし、コボちゃんの強烈な回し蹴りをガードしたさい、左前腕部を骨折してしまいしばらく治療のため稽古を休まざるを得なくなったことがある。
そのため昇級が一時ストップしたけど、復帰するやめきめき上達して次回の審査で飛級し、現在は2級である。
Ki君は、我孫子道場は勿論、世田谷、目黒道場にも頻繁に顔を出し、持って生まれた素質を活かしてめきめき上達している。
コマちゃんとKi君は今回1級を取得したので次回は10人組手ということになる。
実に楽しみだ。
コマちゃんの性格がわかる面白いエンピソードがある。
ある日、満員電車の中で大声で携帯電話でしゃべるアホな若者がいたそうである。
うるさくてしょうがないのであるが、最近は逆切れして暴れたりする出来そこないも多いので電車の乗客は誰も注意しようとはしない。
そこにたまたま乗り合わせることになったのがコマちゃんである。
当然彼は若者に注意をする。
何と言ったかは知らないが、まあこういう状況では何を言っても次の展開は大体決まっているのだ。
若者は、敵意剥き出しで罵声を浴びせ・・・・・・、要するに素直に従わず反抗した。
コマちゃんはどうしたかというと、黙って彼の手から電話をもぎ取った。
そして、そのまま、手を彼の前に差し出して握りつぶした。
電話機を。
電車内は、その後ずっと静寂を保ったということだ。
そのコマちゃんが「今回の昇級審査を受けない」とメールで言ってきた。
その理由は、自宅で自主トレの最中腰を痛めてしまい、とても審査を受けられる状態ではない、ということだった。
私も昔腰では随分ひどい目にあってきた。
そして、その克服のため多くの病院も訪れたし、様々の専門家のアドバイスもいただいた。
しかし、結論としては、極めて単純な方法でこれを解消したという経験をもつ。
このことはこのサイトでも紹介してある。
彼としては、残念ながら今回は昇級は断念せざるをえない、ということであったが、私は彼の体力、身体能力であれば、少し日時を伸ばせば何とかなるのではないかと思い、結論を最終日直前まで保留することを許した。
そして、私は徹底的な冷却療法を薦めた。
そのかいがあったのかどうかは分からないが、何とか彼は組手ができる状態に回復できた。
そして、今回の組手審査ということになったのである。
今回の審査はなかなか見所が多かったので、少し解説してみよう。
1人目の相手はMi君である。
普段世田谷道場をメインにしている彼は、我孫子道場にもちょくちょく顔を見せる熱血漢だ。
緑帯を取ったばかりであるが、急激に技術が向上している。
この組手は激しいものになった。
コマちゃんは最初からパワー全開である。
左右の中段の回し蹴り、胸板への正拳をボクシングのストレート風に叩き込む。
しかし、Mi君も決して打たれっ放しにはならない、目線を落とすこともなく、反撃できる時には反撃する。
しかし、パワーに勝るコマちゃんは接近すれば膝蹴りを、離れれば回し蹴りを、速射砲のように繰り出し、付け込む隙を与えなかった。
2人目の今回茶帯になったYo君は、対戦者の中では最も軽量に属していたと思うが、どんな相手でも臆することなく正面から立ち向かう勇気を持っている。
彼は最初からスピードを活かして果敢に接近戦を挑む。
しかし、コマちゃんは中間距離から強烈なボディーへの突きを連打し、優勢を保つ。
だが、最初からフルパワーのコマちゃん。スタミナは大丈夫であろうか、という心配が少し頭をよぎる。
3人目は、次回10人組手を控えたTa君だ。
Ta君は学生であるが、コマちゃんを上回る長身で、よく上がる左右の回し蹴りと直突き(ストレート)鍵打ち(フック)を自由に使い分けるセンスの良い組手をする。
はたして開始早々技有りにこそならなかったが、綺麗な回し蹴を顔面に決めた。
しかし、パワーに勝るコマちゃんは、ガンガン前に出て行き接近戦を挑む。
突きに自信のある二人はお互いカウンター気味の上段突きが顔面をかするような試合展開を続けるが、一瞬コマちゃんの強烈なケリが誤って金的をヒットしてしまう。
試合続行不可能と判断した私は、Ta君に休憩のあと再試合を命ずる。
4人目は、黒帯のあのダチョウハンター君だ。
今までの試合展開を見て、ダチョウハンターはマウスピース着用で試合に臨む。
開始早々、コマちゃんは強烈な突き蹴りで攻勢にでるが、さすがにこのクラスになると、いなされてなかなか自分のスタイルに持ち込むことができない。
一瞬の隙を突いてダチョウハンターがいきなり上段の回し蹴を放つ。
顔面に軽くヒットするが体制不十分ということでポイントにはならない。
全力で攻撃を繰り返すコマちゃんに比べ、じわじわと距離を詰めていくダチョウハンターは余裕がある。
リラックスした蹴りや突きを至近距離から連打する。
重量感のある攻防が繰り広げられる中、再度ダチョウハンターの上段回し蹴が顔面に決まり、技有り。
試合再開するも、またしても上段回し蹴で技有り。
しかし試合は続行される。
さすがのコマちゃんも、息が荒くなってきた。
ダチョウハンターは、ペースを完全に自分のものにし、リラックスして重い突き蹴りを連続してボデーに叩き込む。
これでますますコマちゃんはスタミナを消耗することになった。
5人目に移る前に3人目で中断したTa君との再試合が行われた。
ダチョウハンター戦でスタミナをかなり消耗したコマちゃんは、今度は完全に守勢にまわる。
強烈なストレートはまだまだ効果的だが一瞬のノーガードになった顔面を上段蹴りで再三狙われることになった。
コマちゃんピンチ。
5人目は黒帯のパオ君だ。
パオ君は、自営のパン工場にサンドバックを置いていつも自慢の回し蹴に磨きをかけている。
このあたりからコマちゃんは、体力の消耗が限界に近づいているのが傍目にもわかるようになる。
パオ君の情け容赦ない中段の回し蹴がボデーにめり込む。
しかしコマちゃんは守勢になりながらも、ときおり放つ突き蹴りの威力は決して衰えてはなく、一発で逆転する可能性は否定できない。
それをパオ君も感じているようで、圧倒的な攻勢をかけながらも決して油断はしないように細心の注意を払っているのが分かった。
そしてコマちゃんは何とか耐えることができた。
6人目はサムライ2段だ。
大手通信会社に勤めるサムライ2段は現空研の最古参の一人だ。
どんなに接近した相手でも、その場から左右の上段蹴り後ろ蹴を相手の顔面に決めることができる柔軟性と反射神経の持ち主である。
また、その限界を知らないようなスタミナにも定評がある。
もはや、気力だけで戦っているコマちゃんであったが、最後となると持てる力の全てを出して攻勢をかけてきた。
しかし、やはり連打を続けるスタミナはない。
サムライ2段は初動の攻撃をさばくと、じわじわと距離を詰め、相手を掴める至近距離から顔面を狙った左右の回し蹴で襲う。
また、脱力した(しかし重い)中段の突きを胸板やレバーにコツコツと集める。
うずくまりそうになるコマちゃんを立たせているのはもはや精神力のみであろう。
それでも捨て身的な全力のストレートを出す根性は最後まで萎えることはなかった。
回りからの大きな拍手が彼の健闘の証だ。
戦い終わったコマちゃんからメールがきた。
「この屈辱をばねに黒帯を目指したい」との決意が込められていた。
屈辱に感ずる必要は全くないのであるが、彼は自分の課題を明確に持ったのであろう。
楽しみな一人である。