平成15年7月30日我孫子道場でサムライの15人組手が行われた。
サムライは、私が拳誠会から現空研を発足させた初期の頃からの会員である。
小柄ではあるが明るく、かざったところがまったくない素直な性格は大変好印象が持てた。
拳誠会時代のトクマンと声や受け答えが似ていたので当時のことを良く覚えている。
トクマンと似ていると思ったのは最初の頃だけで、あたりまえではあるが個性はまったく違った。
トクマンは根っからの自由人で組織には属せず自分流の行き方に徹していた。
サムライは大手の通信会社に所属し、仕事、家庭、空手をすべてバランスよくこなす万能選手である。
その精神力をともなった実力は十分2段の資格があると思い、今回2段への挑戦を推薦した。
サムライは、15人組手の時期を7月終盤にしてほしいと希望を言った。
納得できる体調に仕上げたいとのことだった。
良く上がる足が彼の主砲である。この主砲を磨きあげるための時間も欲しかったのだろう。
そして昨日その日は来た。
今年は7月に入ってもこれでも夏かという涼しい日が続いたのであるが、どういうわけか昨日はじっとしていても汗が噴出す暑さだった。
気温はたいしたことはないのかもしれないがむっとした湿度を感じた。
早速メンバーを選定し、審査に入った。
トップは緑帯のYo君。
元気一杯でスピード感あふれる組手でサムライに挑んだが、サムライの研ぎ澄まされた上段回し蹴りで沈む。
2番手は、まだ高校生のYa君であるが、長身でかつ体重も80Kgを超えておりパワーは申し分ない。
彼は、最初からフルパワーでガンガン前に出てきた。
若さあふれる攻めだ。
しかし、長身の彼の顔面にきれいな回し蹴りをきめ、上段の正拳突きで止めを刺す。
スタミナも十分なサムライは相手に自由に攻めさせて要所要所でビシと技あり、一本を極め、空手を楽しんでいるようだ。
3番手のKa君は、少林寺拳法2段の猛者だ。
高度な技の応酬の末、サムライは技ありをとるも、2分間のフルタイムの組手になる。
4番手のKita君も最近めきめき実力を上げている1人であるがやはりキャリアの差できれいな上段蹴りをきめられる。
5番手の茶帯のKi君は、外国籍の元体操選手である。
柔軟な体からくりだされるパワーあふれる蹴りは威力十分で飛び級で昇級してきた猛者だ。
この組手もフルタイムを戦い続けることになるが、サムライは息一つ乱れない。
6番手の茶帯Ta君は学生であるが、長身で運動神経が良く、相手に応じて硬軟使い分ける器用さがある。
良くあがる足が鞭のようにサムライの顔面に襲い掛かる。
さすがのサムライもヒヤッとする場面があったが、柔軟な体で長身のTa君にも上段で攻めつづけた。
7番手の茶帯コマちゃんはプロボクサーのライセンスを持ち身長も高く体重もある。
持ち前のパンチ力に最近は足技もとぎすまされそのパワフルな組手は対戦者にとっては脅威である。
この組手はスピード感溢れる好試合になった。
サムライの一瞬の隙をついた飛び込んでの上段突きで技ありをとるも、その後は一進一退のフルタイムの組手が続いた。
8番手のAsa君は、打たれても蹴られても、黙々と前に出て行くタイプである。
肉を切らせて骨を断つといった感じさえ与えてしまう。
こういう相手は特にこのような連続で組手をしなければならないな時はいやなタイプである。
勝ったとしても相当な消耗を覚悟しなければならないからである。
やはり、フルタイムの組手になってしまった。
9番手のKawaさんは、50才を過ぎて空手を始められた方である。
現在は建築会社の経営者あるが、若い頃は有名中華料理店のコックをしており料理長の経験まである異色の人だ。
この人は、空手暦は浅いが、天性の格闘センスの持ち主で、その組手はまったく年齢を感じさせない。
この組手も大変スリリングな組手になった。
しかしサムライは一瞬の隙に懐ち入り、前蹴りをガードした腕の上方から顔面を狙う上段回し蹴りで技あり。
スタミナの塊と言われていたサムライではあったが、さすがにこの頃から息づかいが荒くなってきた。
滝のような汗で給水の頻度も上がってくる。
そして10番手からはいよいよ黒帯が対戦相手だ。
黒帯のトップバッターはパオ君。
彼は本職はパン屋さんである。
天然酵母を使った独自のパンは大変有名で、テレビの取材や彼の執筆した本もある程の人である。
その彼が実は現空研の黒帯で自分のパン工場にはサンドバックからトレーニング用具一式ズラリと揃っているということは殆どの人は知らないであろう。
パオ君は、始めの号令と動じに大きな気合を発してサムライに襲いかかった。
連続した回し蹴り、前ゲリと猛攻は続く。
下段を蹴る大きな音が道場中に鳴り響いた。
いよいよ消耗戦への突入だ。
余裕は十分感じられるのだが、体力の消耗は相当程度進んでいることは間違いない。
相手との戦いと同時に自分との戦いが始まった。
11番手はあのダチョウハンターだ。
互いに譲らぬ一進一退が続く中、サムライの一瞬の隙をついたダチョウハンター必殺の回しゲリが顔面を襲った。
技あり、一本、引き分けで勝ち抜いてきたサムライが初めて技ありを取られた。
体力の消耗が進んでいることはもはや疑うことのできない現実となってきた。
12番手は、現空研初段の元キックボクサーのコボ君だ。
彼は現在大学院生であるが極真空手の経験もありキックではプロの試合にも出場経験のある猛者である。
しかも体重は84Kgという重量級だ。
開始早々鋭い前ゲリがサムライをとらえる。
サムライ接近しての上段回し蹴りを狙うがガードの上手いコボ君をなかなか切り崩せない。
中段の突きあい、上段蹴りの応酬と消耗戦が続きこれも時間一杯の激闘になった。
13番手は、警視庁機動隊のN3段だ。
ロボコップのあだ名があるN3段は機械のような正確で鋭い突き蹴りをたたみかけてくる。
サムライも衰えないスピードで応戦するがもはや彼を動かしているのは本能と条件反射だけであろう。
2分間の激闘は終わった。
給水のための場外への移動で足が乱れそうにそうになる。
14番手はコバ師範だ。
コバ師範はあと二人だと声をかけるがもはや返答はない。
しかし、始めの号令とともにいつもの重厚な構えになり気力の衰えは全く感じさせない。
しかし、消耗した体力はもはや自分の体は自分の意志とおりには動かすことは出来ない。
コバ師範の中段回し蹴りをノーガードでもらってしまう。
そして最後の15人目は私が相手をした。
恐らく立っているのが精一杯という状態からの試合開始だ。
私は彼を倒すかもしれない。
彼が最後まで立っていて欲しい気持ちは誰にも負けないが、もし私に倒されても彼に悔いはないであろう。
最初の一撃をもらったとき、彼の気力を肌で感じた。
彼は私の攻撃で2回バランスを崩した。
1回目は中段の前蹴り。
2回目は下段蹴りだ。
接近してボディーに中段突きを入れたとき彼の息が肺から噴出しているのがわかった。
しかし、倒れない。
サムライへの声援が道場中に響く。
彼は最後まで気力を振り絞って攻撃を休まなかった。
サムライ。
15人組手完遂。