ヒット カウンタ

ミルコ対ボブサップ


ミルコ対ボブサップの対戦をテレビで観た。
どちらが勝っても短時間の勝負になるだろうと思っていたが、結果ははたしてその通りだった。

ミルコ選手は突進してくる猛牛のようなボブサップ選手を、あたかも闘牛士がかわすように巧みに避けていた。
その避け方も、単に逃げるのではなく、間合いを殺すというか、常に相手がやりにくい距離に自分の身を置くという方法で有効打を受けないようにしていた。

そして我慢に我慢をかさね、いつかは訪れる決定的なチャンスを覗っていた。
その瞬間は割に早い時期におとずれた。

自分十分で相手がノーガードになった瞬間、彼の鍛えに鍛えた鉄拳がボブサップ選手の顔面を襲う。
この鉄拳は、グローブで覆われてはいたが、ボクシングよりははるかに小ぶりのこのグローブはより生身の正拳に近かったと思う。

この脳震盪を狙うというよりは頭蓋骨を粉砕するような突きは、さすがのタフガイも一発でマットに這わせてしまった。
ボブサップ選手には気の毒だが、このミルコ選手の戦い方は私が考える空手の戦い方とほぼ一致している。

かつて私はグレーシー柔術考と題してヒクソングレーシー対高田延彦の戦いの感想を述べたことがある。
97年の試合だからもう6年近く前の話になる。

その中で、もし私がヒクソンと戦うならという仮定で空手家の戦い方の一つの方法を披露した。
常に成功するとは限らないが、鍛えに鍛えた拳での部署の破壊という方法論だ。

このときは、相手が組み技系の場合の空手家の対処方法という展開であったが、この展開をミルコ選手はこのボブサップ戦で披露してくれた。
ミルコ選手が実際組み技系の対戦相手と戦ったときの感想は、去年の9月に吉田秀彦とグレーシー柔術というコラムで述べた。

このときも、私は空手(打撃系)が組み技と対戦するときの手段として、鍛えた拳や足による破壊力を利用するという方法を提唱し、ミルコ選手の戦い方にそのヒントの多くがあると語った。
ミルコ選手は純粋な空手家ではないのだけど、その戦い方のエッセンスは正に空手そのものである。

確かに総合的な身体能力も相当なものだが、鍛えに鍛えた脛や拳の威力を100%信頼し、そこに自分の生死を委ねている。
相手を破壊するというのは、護身のための武道としての立場に立てば最後のギリギリの選択、手段であって通常はよほどのことがなければ取れる行動ではない。

しかし、このようなプロの世界で双方納得したルールの元で行われる試合であれば、勝つための手段として自分の特性を生かすのは当然のことである。
したがって、最低限の安全性ということで薄いとはいえ、ああいったグローブの着用になったのであろうが、そのグローブの上からああいった一撃必殺的な正拳が出せるとは凄いことだ。

ミルコ選手は、打撃系の戦い方の原点を白日のもとにさらけ出してくれた。

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