社会人で空手を続けようとして、一番困難なことは仕事で時間がとれないという問題です。
残業や接待で物理的に時間が取れないという問題もありますが、仮に時間としてはとれたとしても、精神的な疲れや情熱の冷え込みで元気がでないといったケースの方が多いと思います。
特に、組み手を主体とした稽古体系をとっている道場では、体調の良くないときはどうしても敷居が高く感じられます。
多くの初心者に見られる傾向ですが、最初は情熱がありますから休むということはほとんどありません。
しかし、だんだん慣れてくるに従い、初期の情熱が冷めてきます。
そして仕事の忙しさという大義名分でちょっと休みます。
そのあと時間が取れるようになっても、怠け心がついてしまってずるずると休んでしまうというケースです。
これは空手だけに限りません。
英会話や速記、習字といった習い事すべてに共通することです。
ただ空手の場合は、肉体的な苦痛が伴いますので、いったん怠け心がでるとその垣根はより高いものになってしまいます。
この怠け心の出現を防ぐにはどうしたらよいか。
まず、物理的な時間の不足。これはしようがありません。格闘技のプロでないかぎり、食うための仕事を放棄して空手をやるわけには行きません。
その場合はいさぎよく休みます。
しかし、この場合は空手に対する情熱が無くなっているわけではありませんから、あんまり心配する必要はありません。
むしろ精神的には「やりたいやたりい」といった気持ちが渦巻いているわけですから、かえってモチベーションの強化になることもあります。
また、無意識にイメージトレーニングを行っているかも知れません。
問題は情熱が冷めてきたケースでしょう。
これは、ある程度意識的に情熱を維持させる工夫をしないと冷めてくるのが普通だと考えてください。
例えば、忠臣蔵の赤穂浪士たちでも、あだ討ちの決行が10年後だったら、あの人数はとても維持できなかったでしょう。
逆に維持できたとしたら、何らかの維持のための工夫をしたと考えるべきです。
人間は基本的に弱い存在です。それは肉体的にも精神的にもです。
肉体的には常に楽な方、気持ちのよい方に向かおうとします。
精神的にも、せつな的な快適さを求める方向に向かいます。
これは善悪の問題ではありません。人間というより動物の本質です。
これを倫理的あるいは社会的な善悪として捉えるかぎり、個人のモチベーションの維持という観点からは問題は一向に解決しません。
現代は有史いらい最も(と断言はできませんが)快楽に対して肯定的な思想が世界を蹂躙している時代です。
つまり怠け者にとって自己を合理化するための材料には事欠かない時代なのです。
「快適生活」 「快適空間」 「エンジョイ」 「自分らしく」 「おいしい生活」
こうした言葉があらゆる媒体にあふれています。
ぎゃくに言えば、「やりたくないことはやらなくて良い」
という言葉を大声で言える怠け者にとってもうれしい世界なのです。
こういう風潮ですから、いったん怠けモードにはいったら、本人のよほど強力なモチベーションがないかぎり復帰は難しくなります。
これを防ぐ根本的な方法は、本人の自覚しかありませんが、それを補佐するという意味ではいくつかの助言があります。
ひとつは最初の決心を公言することです。
日本社会から「責任」という言葉はだんだん死語になりつつありますが、「恥」という概念は表現は多少変わっていますが脈々と生き続けています。
「カッコ悪い」とか「ダサイ」とか「いも」とか「たこ」とかなんか他にもいっぱいありますよね。
公言して、できないといわゆる「カッコ悪い」部類にはいりますから、これは社会的な制裁を背景にした抑止力ということになります。
次は遠慮無く「ばか者」と言ってくれる人の存在です。
昔は、親や先生、上司や先輩がそういう存在でした。
今は違います。
今は「嫌われたくない人」ばっかりですから。
嫌われるに決まっている「ばか者」という言葉を愛情を込めて言ってくれる人がほとんど居ません。
ですから、こういう人を探すのは結構大変かもしれません。
禅寺にいって気合を入れてもらうのは、これの簡易版ですね。
でも、「何とかセミナー」で特訓を受けるというのはあまりお奨めしません。理由一言では言えないので今は言いません。
話は元にもどりますが、根本的には本人の自覚です。
何のために空手をやるのか。
何のために強くなるのか。
どうしたら強くなれるのか。
このことを原点に返って良く考え、だから稽古するのだ。という結論がでなくてはいけません。
そして、絶対にやりとおすという決心をします。
しかし、それは硬いけどもろい決心であってはなりません。
強いけど軟らかな決心が必要です。
最後に本当だけど怖い悪魔のささやきを披露。
自分の体の具合についてです。そして悪魔撃退の金言も。
自己の肉体との正直な会話。
これが、例えば今日のハードトレーニングを休むべきか決行するべきかを決める条件です。
しかし人間は天邪鬼です。
本当に休まなければならいほど消耗しているときに、悪魔がこう言います。
「もっとがんばれる もっとがんばれる」
無理して体を壊すときはこう言うささやきの後です。最悪死ぬことだってあります。
逆に、体は十分余力があるとき悪魔はこう言います。
「きょうは休めきょうは休め」
悪魔が去ったとき自己嫌悪に陥ります。
金言
大丈夫だと思うときは休め
休みたいと思うときは決行しろ