いつもロマン溢れる旅行記で、読む人の心をほのぼのとさせてくれるサカ坊です。
前回の心温まる物語から一転、美しいなかにも冷え冷えとしたユーモアで皆に夢と感動と与えてくれるスペクタクル巨編です。
サカ坊
昨夜は泡盛を相当飲んだけど、不思議なくらい(アルコールが)残っていない。
「泡盛は、いくら飲んでも次の日は残らんさぁー」とオバァが言ってたけど本当だった。
MさんとK太はすでに仕事(スクラップ回収)に出かけ、昼頃に食事をとりに戻ってから2時のフェリーで帰るそうだ。
今日は、昨日見た崖下の海岸を探検する予定。
もしかしたらすれ違いに挨拶できないかもしれないので、携帯の番号とメールアドレスを彼らに渡して欲しいと、メモをオバァに預けた。
朝食を作ってもらい、2月というのに例によってTシャツで出かける。
気温24度。
こっちの島の皆さんは24度では寒いらしく、島人の多くはジャンバーを着込んでかなり厚着をしているが、K太と僕はTシャツで丁度いいくらい、ましてや暑いくらいに感じていた。
東京とは明らかに違う太陽の光線。
ヤマトンチュウには痛いくらい肌を突き刺し、それはとても大きく、また燃え盛る炎の原型のように間近に感じられる。
スクーターのエンジンも好調で、かなり古いタイプではあるが急な坂道や舗装されていない通りも苦なく動いてくれる。
さて、昨日見た崖の下(西側)に行くにはルートは二つ。
崖とは反対の東側の砂浜から島伝いに歩くか、または崖の方まで行って下に(海岸に)降りられる道を探すか。
東側の海岸から歩くには、いくら小さい島といってもかなり時間がかかる。
幸い、崖のある展望台まで海側を走っていたら、何本か崖の下の海岸に続く道があった。
道といっても無理やり下に通すように作られ、箱根のいろは坂のように工夫はしてあるものの、かなりの急坂であった。
それもそのはず。
100mの高さから海岸まで、しかも小さな島ということもあり階段ならともかく道路を通すこと自体に無理があるのだ。
そこで、最初の大自然の洗礼を受ける。
フルブレーキに近い状態で下っていると、“明らかに物体だが空気に近い存在”の渦の中を数メートル通過した。
サワサワサワぁ、っと全身に微かな感触。
夏になるとドブの上などに群れを成して飛んでる、例の蚊のようなヤツの大群、しかも大自然で育った精鋭部隊が巨大な連隊を組んで飛行中だった。
事もあろうにその連帯、巨大な蚊柱に突っ込んでしまった。
眼、鼻、口の中にも、“奴ら”は入ってきた!!
体を見る。
腕を見る。。。
ミラーで顔を見る。
全身、真っ黒になるくらいに例の蚊がついているではないか!!
顔はと言えば、一時期の飯塚師範のように蚊のヒゲで覆われている!!!
まさに、蚊の毛皮を着込んだ蚊の親分、蚊のビックボス状態。。。。。。。。
神経錯乱、狂喜乱舞、一人 乱痴気騒ぎ!
パニック状態でスクーターから飛び降りる。
手でさすって払った場所は線が残るくらいの蚊の密度。。。
こうして書いてても鳥肌が立つ。
・・・やめた。
・・・忘れたい。
ようやく鼻の穴もスッキリし、少々ヘコみ気味の僕ではありましたが探検は続行。
下ってきた道を見上げるとジェットコースターのコースのようだ。
スクーターのエンジンを切る。
そこは、波の音のみ。
波の音といっても穏やかで、静寂すら感じられる。
昨日、崖の上から僕が覗き込んだ海岸はその場所から1キロくらい先だろうか。
右手は高くそそり立つ崖、左手には海。
海岸といっても砂浜ではなく、溶岩質が自然に幅20m程度の平らな道となった感じだ。
植物の気配はない。
あるのは、ひたすら平らに続く亀の甲羅のような溝が入った溶岩質の道、そして絶壁と海だけだ。
僕の中で映画ジェラシックパークのテーマが流れ、第三者的な高い位置からの映像、自然の中に立ちすくむちっぽけな自分の姿をハイビジョン映像で捕らえる事が出来た。
それはまるで、これから始まる悲惨な出来事の微塵もない、非常に爽快な映像として映ったのだった。
遠くに見える昨日の崖の下の目的地は砂浜になっているようだ。
まずはそこを目指す。
崖の近くを通ると落石や投石?で石が落ちてくる可能性があるので、出来るだけ離れて海側の方を歩く。
投石、と表現したのは昨日崖の上に立ったとき、100m下の海をめがけて石を投げてみたいという衝動に駆られたからだ(笑)
歩いて数分、白くて先のとがった20センチほどの物体が数本転がっていた。
近くに行って見る。
凝視する。
「これって、ヤギの頭に付いてるやつ・・・?」
刃物か鋸のようなもので切り取られ、切断部からわずかに血が滲んでいる。
思わず辺りを見渡す。
ヤリを持った人たちに囲まれてないか、弓矢の照準になってはいないか。。。?
見渡すとヤギの頭骸骨が2、3個。しかも新しい。
いかにも“少し前に、あなたがいるこの場所で、ヤギを潰して食べました”という形跡。
辺りに散乱した臓物の一部、骨。。。
“確か、昨夜飲んでるときにヤギの刺身が出た”
しかし、島の中を平気な顔して歩いてるヤギ達、またここにある残骸のヤギは、野生なのか飼われているのか疑問には思ったが、いま目の前にある光景は昨日の出来事やさっきの蚊の群れを経験した僕には何ら不思議なものではなく粟国の一部分でしかなかった。
海側を歩くと、その透明度に眼を奪われる。
大きな魚の魚影、また波の状況で青、緑と変化する海を見ていると、飛行機で2時間、フェリーで二時間半、国内とは言うものの“思えば遠くに来たもんだ”と思わずにはいられない。
スクーターを停めた場所と目的地の中間辺りで、色々と寄り道?しながら一時間ほど経った頃スコールに見舞われた。
そうそう、これこれ(笑)
やはり、こうゆう場面で突然のスコールは良く似合う。
半端じゃない量の雨が降り注ぎ、先ほどの蚊の汚れと(払う際に数十匹は潰れた)、頭の中に入った数十匹、そして、あのサワサワとした接触した感触を一気に洗い流してくれた。
辺りは一気に暗くなる。
崖側の窪んだところで雨をしのいでいたが、改めて道に出て崖を見上げると4,5メートルほどの高さに洞窟らしい格好のスペースを2,3発見した。
奥行きもありそうだし、少なくともこの場所よりかは雨はしのげる。
幸い、溶岩特有の岩の突起が足場となり、そこに行き着くのは簡単だった。
奥行き2メートル弱、直立する事は出来ない。幅は3メートルはあるだろうか。
しかし、僕の貸し切り状態のこの海岸で、このようなアドベンチャー気分バツグンの洞窟、またスコールまで降らす粟国島の演出には大満足だ。
ポケットからタバコを取り出す。
「あー、美味い。 自然よ万歳。 粟国よ今日も有難う」
しかし、このノーテンキな気分が長続きすることはなかった。
ここで僕は重大な事実を知ることになる。
洞窟内で1時間のアトラクション的な雨宿りを満喫していたが、そろそろスコールにも飽きてきた。
一体、いつ止むんだ。
早くオレを目的地まで行かせろ。
粟国は携帯の電波だけは良く届く。
天気予報サイトを見た。
沖縄地方、午後から雨。降水確率80% 大雨注意報????????
「スコールじゃない。本降りだった。。。。。」
そして、追い討ちを掛けるかのように驚愕の事実を思い知らされる。
下を覗き込むと、歩いて来た道が無い。。。
ノンキに鼻歌を歌いながらプラプラと歩いた道、その道がないのだ。
「さっきまでは、 引き潮だった。。。。。」
悪条件は、畳み込むように僕を追い詰めていく。
「帰る道が“海”になってる。。。あわわわわわわぁぁぁぁ・・・・・」
さっきスクーターを降りた際にビジュアル的に感じた、第三者的な視点で見た映像。
それは完全に洞窟の中に取り残された、自分とも認識できないくらいに遠くから写した映像に変化し「遭難者発見しました!動いてます!頑張れ!」という実況中継のようなナレーション付きの報道番組になっていた。
雨は更に強く降り続く。
奥に居れば直接的に雨は当たらないが、洞窟の周囲に叩きつけれられた雨がミスト状になって洞窟内に吹き込んでくる。
じっとしていると寒いだけなので、腕立て伏せを開始。
寒くなっては腕立て、その繰り返し。
「あー神様、仏様、ご先祖様。。。もう、こんなアホな探検はしません。。。」
懺悔と同時に「あー、無事に帰ったらアノ人を探して、ちゃんと謝りたい。」という人が何人も浮かんで来ました。
高校の頃、担任のT先生に放課後呼ばれました。
T先生は駆け出しの若い先生で、僕らも完全にナメきってました。
「サカ坊君、君さぁ明日までにパーマを落として髪も黒にして来なさい」
「そんな金ねぇーよ。」
「いくらかかるんだ」
「5千円」
「それくらいなら有るだろう」
「ねぇーよ。バイト禁止だろ?イイなら、バイトしてその金で。。。」
「・・・じゃ僕が出す。僕も生活指導の先生にサカ坊君の髪の事で毎日怒られてるんだ」
「わかったよ」
と、その5千円でマクドナルドに寄り、仲間に大判振る舞いをしてしまったのだ。
T先生。
あなたに会って拝借したお金を返してきちんとお詫びしたい。
また○○君。
君の大事な単車、あれを川に沈めたのは僕です。
いたずらが過ぎました、ゴメンなさい。。。
それとF君。
君の新車スープラを水玉模様にペイントしたのは僕です。
・・・あー、皆さんに謝りたい。
そんな心情を察してか、粟国の“善の使者”が僕の頭上を旋回する。
「なんだアノ鳥。。。」
見たことないような大きな翼を広げ、最初一羽だった巨大な怪鳥は二羽、三羽と仲間を呼び、そのうちの一羽が間近まで近寄って来ては仲間に状況を知らせているように見える。
「ヤツら、 オレを食うつもりだ。。。」
「ほら穴に“カワウソ”が居るぞ。食っちまおうか」とか話しているに違いない。
最悪だ。
ここで遭難し、鳥に食われる人生か。。。
下を除く。
海水はぐんぐんと水位を増して来た。
4時間経過。。。
改めて、海の状況を見る。
銚子の海のような波もなければ流れも遅い。
幸いにして潮はスクーターのある方に流れている。
距離にして500mもないだろう。
所々に取り付く岩もある。
ここで鳥に突付かれるなら泳いだろっ!
一大決心だった。
さて、問題は携帯電話と財布。
口にくわえるのは無理だし、財布は後で乾かせば済むが携帯のデータはそうもいかない。
考えろ、考えろ、考えろ。。。。
「あっ!ひらめいた!!」
Tシャツを脱いで広げる。上は素っ裸だが寒いなんて言ってられない。
妙なアドレナリンが噴出しまくり、暑いくらいだ。
そのシャツの中央に財布と携帯。
念のため、タバコの袋に携帯を押し込め少しでも水に当たらないようにする。
Tシャツをグルグルと巻いてヒモ状にする。
細長くなったそれを、頭のてっぺんに乗せて首の下で結わけば。。。
・・・なんとも間抜けな格好だ。
頭を軽く振って、固定感を確認する。
・・・恐ろしく間抜けな格好だ。。。
軽く体の筋を伸ばしながら海を除き、「あそこの岩で一回休憩。で、次は、、、」と入念なシュミレーションを行う。
しかし、問題は鳥だ。
靴の底を岩にパンパンパン!叩きつけ音で追い払おうとした。
逆に好奇心を誘ってしまう。
「ゲンキナ、 カワウソダ」
でも、まさか人間は襲わないだろう。
オンシーズンになれば観光客も来るわけだし人は見慣れているはず。
しかし観光客の残飯がない今、やつらは空腹の絶頂期を迎えているかもしれない。
(冗談っぽく書いているが、本当にデカくて正直いって怖い。かなり怖かった。。。)
「うーん、どうすべ」と最悪な状況も考えなくてはならない。
その瞬間、頭にシビレが走る。
何が起こったのか一瞬分からなかったが、携帯が(バイブレーションが)鳴ってる!
「電話したときはサカ坊さん元気そうだったのに。。・・・・・・まさかこんな事になるなんて。。。」
てな悲惨な会話が頭を過ぎる。
頭に結わいた携帯を取り出すと、見知らぬ番号。
とりあえず出る。
「どーもー!いま那覇の港に着きましたよー」
2時のフェリーに乗ったK太だ!!!
とりあえず状況を簡単に説明し、潮が引く時間を調べて欲しいとお願いする。
数分後、K太から連絡が入る。
「あのね、この時間だと、あと10メートルは上がるって。引くのは夜中だって」
「・・・うそだろ?」
「ウソやって(笑)」
「・・・・殺すぞ、お前。。。」
「(爆笑)もう引く時間らしいですよ。引いとるんとちゃう?」
「あ、言われてみれば。。。」
言われてみれば(気分的に)水位は引いているようだ。
助かった。。。
食われないでよかった。
K太に礼を言い、この粟国の旅を機会に連絡は取り合おうという事で電話を切った。
この時、必要ないのになぜか僕は携帯をTシャツに戻して頭に巻くという奇怪な行動にでるが、未だに本人もその理由は分からない。
膝辺りまで水位は落ちた。
鳥の襲撃用に流木のような棒を片手に持ち、スクーターのある場所に向かう。
(園田先生に棒術を習っておくべきだった)
雨は小降りになっていたが、やはり寒さは変わらなかった。
結局、蚊の大群に突っ込むわ、5時間近く洞窟にいた僕は何をしに来たのだろうか(笑)
明日は、ちょっと安全に浜の方に行こうか。。
民宿に戻ると夕飯の仕度が始まってましたが、皆、今日のフェリーで帰ってしまった。
オバァはいつも奥の自分の部屋で食べてるそうだが、こちらで食べようよ、ということでオバァと二人で夕飯を食べ、食後に泡盛を飲む。
オバァは飲めないのでお茶を飲んでいた。
今日あった一連の話をオバァに聞かせ、洞窟での話しは腹を抱えてゲラゲラと笑っていた。
さんざん笑った後、疲れがどっと出た。
部屋に入る。
さて、粟国滞在もあと1日。
いったい何が起こるのだろうか。
布団の柔らかさをこんなに幸せに感じた瞬間はない。
いつの間にか雨も止んだ。
窓を少しだけ開ける。
ふわっと、潮の香りとオバァが育てている花の香りがする。
ポタポタと雨のしずくが静かになると同時に、それは波の音と虫の鳴き声に変わっていった。
今日あったことが遠い昔の出来事のように思える。
粟国島の音が心地いい。
今日は窓を開けて寝よう。
〜粟国旅行記 終わり〜
追記:
こうして東京にいる今も、あの粟国の天気が気になる。
近隣に勤めている現空研の「東京飲んべえ会」の会が先週行われ、サムライ2段、ジャイアン初段、バイアグラ三島初段、ダチョウハンター初段、コマちゃんにこの粟国の話を聞かせたら喜んでくれました。
また、会社の同僚にも話をしました。
釣り好きで、粟国に興味を持った同僚Iがインターネットで「粟国島」の検索を試みました。
同僚:「サカちゃんさぁ、崖にあった洞窟で雨宿りしたって言ってたじゃん?」
サカ:「うん」
同僚:「ふーん。そうか・・・」
サカ:「何よ?」
同僚:「いや、気になる事がここに書いてあるんだけどさ」
サカ:「何が」
同僚:「そのまま読むよ?」
サカ:「うん」
同僚:「これ見てよ。雨宿りした崖の洞窟ってこんな感じ?」
サカ:「そうそう!これこれ!!!(笑)」
同僚:「やっぱコレかぁ。でもさぁ下の方を読むとよぉ。。。」
サカ:「ん。。。。?」
「粟国の墓は、ほとんどが崖をくり貫いたタイプである。。。」
僕の人生、こんな落ちばかりだ。
【携帯で撮影した粟国の風景】
ウーグ浜の入り口。
スクーターで走り回った粟国の道。
ウーグ浜の波打ち際。不思議な貝がたくさんあった。
例の崖の上。ここから下を覗いて、探検を決意した場所。。。
洞窟?の中から見た風景。まだ余裕があった。。。(左下が“カワウソ)
ほんとうにキレイでした。
今度の合宿は粟国で如何でしょうか?