ヒット カウンタ

組み手が取り入れられない道場での組み手の上達


はじめまして、いつも現空研のHPを拝見させていただいております。
自分は埼玉在住の年齢が二十歳の大学生です、
名前は○○と申します。

空手は約半年前から近所にある伝統派空手(流派は○○○○)の道場に通っています。
まだ緑帯の初心者で恐縮ですが質問させて下さい。

質問は、組み手があまり主流ではない道場で、組み手の上達は望めるのか、です。
自分の通っている道場では週に三回ほど稽古がありまして、稽古内容が基本の突き、蹴り、受けから移動稽古に入り、型をやって終了。
(稽古時間の長い曜日にはミット打ちを)このような稽古体制をとっています。
例外として、試合などが近づくときには稽古に組み手を取り入れていますが、それも2、3回やる程度です。
大学の空手部に入ろうともしたのですが、距離的な問題からあきらめるしかなさそうです。

このような質問をしたのには理由があります。
先日、他流派伝統空手の大会に参加できる機会を得ることができました。出るからには当然勝ちたいと思っており、気合を入れて試合に出ました。
しかし結果は惨敗…技ありを取ることもできませんでした。
言い訳になりますが、空手の試合にでたのは初めて、面サポータを着けたのもその日が初めてでした。
負けた直後は悔しくてたまらなかったです。
すぐに強くなりたい、組み手をもっとやりたいという欲求が込み上げてきました。
しかし試合が終わったので道場では組み手を取り入れることもなくなりました。

道場の先生の方針はうちの道場では組み手ではなく型を重点に置くとのことです。
道場の先輩にも悩みを打ち明けたところ、先生と同じようなことを言われ、組み手は型がきちんとできるようになれば自然と上手くなるよとの事でした。
自分はそれを素直には信じられませんでした。
自分は中学、高校と剣道をやっていたのですが、組み手は相手と稽古をし、その中で上達していく、基本がもちろん大事なことも重々承知ですが、基本の素振りや打ち込みをしているだけでは強くはなれない、そう思っていたからです。
その考えは今も変わってはいません。
空手でもこのような事は同じではないのでしょうか。

話がそれましたが、組み手を取りいれない道場で組み手が上達するようになるにはどうしたらいいのでしょうか。
また自主練で強くなることは可能でしょうか。
可能ならばお手数ですがその練習方法をご教授願えますか。
質問は以上です、長くなってしまい申し訳ありません。

話を突き詰めますと「基本と形だけで強くなれるか」という事です。
結論から言えば、組手をしないで強くなることは不可能に近いです。

剣道でも柔道でも同じです。
もし、柔道で基本の受身と古来の形だけでオリンピックで金メダルを取るということを主張することを考えて下さい。

武道に限りません。
あらゆる球技や体操、水泳など基本稽古だけではとても一流にはなれないことは議論するまでもありません。

武道やスポーツだけではありません。
音楽でも同じです。

ピアノの稽古をする場合基本の指の稽古だけでリストの難曲を弾けるようになることは不可能です。

勉強の世界でも同じです。
例えば数学を例にとると、どんなに定義や定理をしっかりと理解しても、実戦的な練習問題やドリルを十分こなしていないと試験問題という試合で勝つ事は難しいです。

なぜ、空手だけが例外でいられるのでしょう。

空手の世界は不思議な伝統があり、このように基本だけで強くなれると主張する人は結構多いのです。
私は伝統を尊重する立場ですがこの基本に偏執した考えに組することはできません。

もし、基本と形だけで強く成れると信じている人がいて、命を賭けた試合に臨まなければならないとした場合、その人は組手の稽古を一切しないで基本稽古だけでその試合に臨むのでしょうか?
私には考えられない事です。

命を賭ける程ではなくても、どんなルールであってもそのルールの元で真剣勝負を行うのであれば、実際の試合方式にのっとった事前の十分な稽古が必要です。
これはフルコンであろうと寸止めであろうと同じです。

現空研の会員が他流派の試合に参加する場合は、可能な限りそのルールに即した稽古を事前に積ませるようにしています。
例えば、現空研は普段は顔面は寸止めで稽古を行っていますが、グローブを付けての顔面有りの大会に出場させた時はヘッドギアなどを付けて、キックやボクシング出身の会員などとスパーリングを行なわせたり、他の会員からも希望者があればボクシンググラブを付けてのフルコン組手などを体験させました。

勿論、現空研の基本原則や考え方には一切の変更はありません。
基本的にはどんなルールであっても対応できなければ本当の実力ではないと思うし、現空研のシステムはそれを可能にすべく研究、努力をしているからです。

ただ、誤解しないでいただきたいのは、実戦的な稽古を重視しても基本を疎かにして良いとは決して主張していない事です。
突き、蹴りの基本は大事で初心者のうちに自己流の変なくせがついてしまうとそれを矯正するのに余計時間がかかったりします。

拳の握り方や拳の出し方、腰の入れ方や肩の無駄な力を取る、といった事にはじまり、立ち方、運足、受けの原理、前蹴りの基本、回し蹴の基本等重要な基本動作は山ほどあって、これらは時間をかけて十二分に稽古しなければなりません。

実戦的な組手稽古を長い間重ねていると、基本の重要さというものはいやでも分かってきます。
強い人程基本の重要さを肌で感じているのです。

実戦的な組手を通して知る基本の重み、そして基本に戻って技を再構築し、また実戦に臨む、これを繰り返す事で総合的な実力を高めていくことができるのです。 

この私の言っていることと、内容は同じでも違った表現をされる先生もいらっしゃいます。
例えば、子供や若い人はどうしても地味な基本より、はでな試合形式の稽古のほうがゲーム性もあり、そちらに偏りがちな傾向があります。
好きなようにさせておくと、どうしても基本が疎かになりがちです。

それを戒めるために、極論として「基本さえちゃんとやっていれば強くなれる」といった表現をされる事も少なくないでしょう。
私も、状況によってはこういう表現をするかもしれません。

また、本当に天性の格闘センスを持っている方なら、基本や形だけでも組手においてかなりのレベルに達することも可能かもしれません。
そうした実績を本人がお持ちであれば「私は基本だけでこの実績をあげた」と主張されても間違いではないでしょう。

それから、空手を人生の中でどういった位置付けで考えているかといった点も考えなくてはいけません。
人生の中で若い一時期だけを特定の目標に向かって完全燃焼させるといった取り組みの空手と、年配の方が運動不足の解消や健康維持の目的で始められた空手では稽古の内容が異なっても不思議ではないでしょう。

道場によってその道場がめざす方向性といったものがあります。
とれが正しいとか間違っているということではなく、その最終的な目標とすることをどこに置いているかということです。

現空研であれば、このホームページで「理念」として掲げてありますし、私もコラムを通していろんな場面における私の考え方を披露しています。
道場によっては、ことさらこういったことを言わないところもあるでしょう。
昔の道場は、だいたいあらたまってこんな事は言わないのが普通でした。

私は質問は受け付ける方ですが、(このQ&Aのコーナーはまさにそのまんまでしょう)昔の先生は質問をする事自体が大変失礼になる、といった考えの方も多かったと思います。

人間というのは不思議なもので、気に食わない質問をされると、極論で反撃する傾向があります。
「基本なんて意味ないんじゃないですか?」なんて言われると、
「基本さえやっていれば強くなれるんだ」とか返したくなるのが人情なのです。

ですから、一回や二回の話で出た言葉でその人の真意ははかることはとても難しいし、不可能だと思ったほうが良いでしょう。

話がだいぶ長くなってしまいましたが、ご質問にお答えしましょう。
貴方の言っていることはもし試合で勝つという事を目的とすれば100%正しいです。

しかし、その先生や先輩が言われている事はもっと別の状況を想定した言葉かもしれません。
空手ではありませんが、私がピアノを習った最初の先生は、最初は指の上げ下ろしと音階しか弾かせてもらえませんでした。
その先生の口癖は「基本」でした。
私はできそこないの生徒でしたが、その先生の多くの教え子が桐朋や芸大といった一流の音楽学校に進学しましたし多くのピアノコンクールで入賞もしています。

その先生のやり方には父兄や他のピアニストでも批判的な意見が多数ありました。
しかし、才能の無かった私でも多少の曲が弾けるようになったのは、徹底した基本重視とスパルタンなご指導のお陰だと思っています。

私が30歳を過ぎたころ先生とゆっくり食事しながらいろいろお話を伺ったことがあります。
私を教えられていた頃がもっとも生徒に厳しく接していた時代だったそうです。

その後いろいろ回りの意見も取り入れ、いったんはだいぶやさしく教える方法に切替たこともあったそうです。
しかし、最近やはり昔の方法で良かったんだと再認識し現在は元のように厳しく教えることにしました、というようなお話を伺いました。

あんなすごく自信満々に見えた先生でも自分のやり方に懐疑を持って教育方法を暗中模索されていたんだなあ、と感動したことを覚えています。

貴方は剣道の経験もあり、そこから得た基本的な考え自体は正しいと私も思いますが、空手に関してはまだ半年の初心者です。
まずはそこの道場で黒帯を取るということを目標に頑張ってみてはいかがですか。

ミット打ちのような実戦的な稽古も取り入れられているし、試合に出させるという事実が組手を全く無視してはいないという証明になります。
黒帯になればその流派の基本的な考え方も理屈だけでなく体でも理解てくるでしょう。

それとその道場には貴方と同じように組手をもっとやりたいという仲間とか強い先輩はいないのですか。
そうした仲間や先輩がいれば自主的な稽古も何らかの形で可能だと思います。

一人で行える稽古もたくさんあります。
まず、一番直接的で効果があるのは筋力トレーニングや攻撃部位(拳や脛)の強化です。

あと、これは全ての稽古について言えるのですが、一人でやるときは常に相手が目の前にいることを想定し、その相手を倒すというイメージを明確に持って行うことが非常に大切です。(イメージトレーニング)

自分の動きをスムーズに頭にイメージできない限りその技は自分のものにはなっていません。
常に実戦をイメージすることで同じ基本稽古が何倍もの効果を生みます。


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