ヒット カウンタ

すべて起りうる危険に対応するための護身術

更新 2009/05/30


はじめまして。いつも楽しくホームページを拝読させていただいております。
私は現在、静岡の○○空手の道場で空手を習っております。36歳、主婦、一女の母です。

先日、県の交流試合に出場した際、禁じられている顔面殴打により、首の骨が少しずれてしまい、日常生活に多少の不便を感じました。
道場で組手の稽古をする場合は、禁じ手は行われないことを前提にして行うのですが、実生活で危急の場合の攻撃を考えますと、拳骨で顔を殴られる、ということがもっとも起こりやすいのでは、と思います。

顔面を手技で攻撃された場合の組手の稽古を道場の先生に提案したのですが、少年部、壮年部、一般すべていっしょの大所帯では、なかなか難しいようです。
また、禁じ手に対する稽古を組織的に認めると、「禁じ手やったって、オッケーじゃん。ふだん稽古してるんだから」という気持ちを育てる土壌ができてしまうことも懸念されるとのことで、私どもの道場で実施されるには時間がかかりそうです。

現空研さん主催で、そうした、すべて起りうる危険に対応するための護身術講習会のようなものを開いていただけたら、万難を排して参加したく存じます。


まず主婦でフルコン空手の試合に出場される勇気と行動力に感服いたします。

さて、素手での顔面攻撃についてですが、
素手で顔面を直接攻撃(当てる)ことは、伝統空手でもフルコンタクト空手でも普通禁じられています。
それは最も危険であるということが一番の理由です。
しかし、最も危険であるということは裏を返せば最も攻撃としては効率が良い個所であるということです。
禁じ手と言われるものは殆どがこういった側面を持っています。
例えば、目突き、金的、倒れた相手への加撃、後頭部や背中への攻撃、噛み付き等です。

禁じ手については議論すれば結構奥の深い話になります。
顔面攻撃以外では例えば「噛み付き」です。
「噛み付き」は、決死を覚悟した人間の究極の武器ではないかと思います。
人間以外の殆どの哺乳動物の主武器は「噛み付き」です。
人間でも極限の状況では本能的に出てもおかしくない行動です。

実話としても有名な話があります。
力道山はご存知ですよね。戦後一世を風靡した国民的英雄のプロレスラーです。
そして、鬼と呼ばれたお相撲さんの横綱若乃花(若貴兄弟の伯父さんに当たる先代若乃花)。
力道山は元関取です。若乃花は若い頃兄弟子の力道山に鍛えられました。
二人は凄まじい稽古を繰り返したそうです。
投げられても投げられても向かっていく若乃花を力道山は情け容赦なく土俵にたたきつけたそうです。
ついに若乃花は失神してしまいます。
その失神する瞬間若乃花は力道山の脛に噛み付いたという話が残っています。
力道山の足には若乃花が噛み付いた歯型が残っていたらしいです。

話が脱線したついでにもう少し極論を話しましょう。
もし貴方が暴漢に襲われたとします。室内でも屋外でも良いです。
命を狙われているような襲われ方をしたとします。
貴方は当然抵抗するでしょう。
そのとき傍らに坊切れが落ちていたとします。あるいは鉄棒や刃物でもかまいません。
あなたはみすみすそれを使わないという選択はしないでしょう。

素手の争いというのは、慣習、文化も含めた社会的な構造の中の一種の虚構だということがわかります。
素手による護身術の現実的な厳しさがここにあります。

実際に自分自身を犠牲にする覚悟を持った刺客が手段を選ばず命を狙ってきたらこれを100%防ぐ方法は多分ありません。
これは、プロのドロボーが狙ったらどんな頑丈な鍵をつけていても破られるといった理論と同じだと思います。
では一切の護身術は意味がないのか。
そうではありません。
強力な反撃の手段(鍛えた体や空手の技など)を持ち、理不尽な暴力は許さないといった決意を持った人間を攻撃するには攻撃する側にも多大なリスクを負わせることになります。
これが護身術の存在意義だと私は思っています。

現空研ではナイフで攻撃されたことを想定する「短刀取り」という技を必修として定期的に講習しています。
しかし、刃物を持った暴漢にこの技で100%対抗できるとは私も思っていません。
型もかなり様式化しておりますので演武として行えば華麗ではありますがどこまで実用的かと問われますとなかなか返答の難しいところです。
私自身もこの技をどの程度理解しているのか分からないところもあります。
しかし師範から教わった数多くの技術は後に続くものに100%伝えていくのが使命だと思っています。
私の師範もそういった意味の話をしながら教えて頂いた記憶があります。

この型の中には関節技のエッセンスがぎっしり詰まっています。
短刀取りという形にはなっていますが、この型を反復練習することで立ち関節技全般の技量が上がることは間違いないのです。

技を知っているのと使えるのは雲泥の差があります。
知っている技を使えるところまで磨きをかけて体得するのは本人の努力によります。

柔道の一本背負いは柔道をやっている者は誰でも知っていますが実戦のなかであそこまで見事に開花させたのは古賀選手(オリンピック金メダリスト)以外には私は知りません。

話が発散してしまいましたが私の言いたい事は伝わったでしょうか。

質問者の方の道場の方針ですが、これも私の今までの話である程度ご理解できるのではないでしょうか。
禁じ手に関しては、その対処方法も含めて範囲の限定が大変難しいのです。

相手がナイフを持っていたら、ピストルを持っていたら、熱湯をふりかけてきたら、汚物を投げてきたらと想定を始めると大変です。

現空研は、通常は顔面攻撃はありうる、金的もありうる、例外的に刃物までは想定しましょう。
というスタンスです。

しかし、相手が噛み付いたり、ピストルを取り出したり、薬品を投げつけるなどの想定は行っていません。
後は応用の世界になります。

この範囲の想定は流派や道場で異なると思います。
競技空手を重視していれば、当然範囲はその競技のルール内という想定が重視されるのはごくごく普通のことです。

また現空研主催での護身術の講習会のご提案ですが、今まで述べたように攻撃の線引きと護身術自体のとらえかた(思想)を明確にしなければ殆ど意味のないものになります。

こうした点を上手くクリアできればそういった企画も前向きに検討したいと思いますが、現時点では忙しくてそこまで手がまわりそうにありません。

しかし、現空研は他流派の方も自由に参加できますのでもし上京する機会がありましたらどうか見学がてら稽古に参加して下さい。
現在いろんな流派の方も多数入会されていますし、明るく建設的な技術交流を行っております。



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