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十人組手を終えて〜自分なりの課題設定とその克服〜

Mizuo君は慶応大学理工学部の大学院で情報を専攻している学生です。
大手の情報機器メーカーに就職は内定しています。
世田谷道場を開いてすぐ入会してきました。
長身で見かけは今風の若者なのですが、考え方に芯があり、話もおもしろいです。
ピアノを趣味にしていると聞いてびっくりしたこともあります。
体重が軽いので、それを克服するための工夫や研究をかなりやっていた事は彼の組手スタイルを変遷をみていればわかります。
私の目から見て、彼は2回飛躍的に進歩した時がありました。
どちらかというと後半急激に伸びて来ました。
緑帯の頃まではあまり目立ちませんでしたが茶帯の、それも1級を取った頃から存在感がでてきました。
そして今回の10人組手の前後からまた一段の進歩を感じさせられます。
先日は世田谷道場でも最強豪の一人Kawabe君に一本勝ちを収めました。
彼に勝ったのは初めてではないでしょうか。
まぐれや偶然で取れる相手ではありませんから着実に彼が実力をつけてきた証拠でもあります。


写真は今年の夏合宿での稽古(右がMizuo初段です)
左はクラ二段


2005年11月15日
世田谷道場 Mizuo初段
大学院在学中




入門して2年半、十人組手を何とかやり遂げ、黒帯を締めさせていただくことになりました。
十人組手についてと、それに付随して少し書かせていただきたいと思います。


◎十人組手前に考えていたこと

今回の十人組手を迎えるにあたって、一つ心に抱いていた言葉。

「人生はいつも準備不足の連続だ
 常に手持ちの材料で前へ進む癖をつけておくがいい」

これはある本に書かれていた言葉で、「自分なんかが十人組手をできるのだろうか?」と後ろ向きになったときに、今回はこの言葉を思い出すようにしていました。園田会長も、よく審査の季節になると「審査の資格を持った人は、とりあえず受けてみたほうが良い。何ごとに関しても、準備万端で臨めることなどほとんどない」と言われていました。「例えば、大学受験のように、受験日が分かっていても、完全に納得いくまで準備のできる人はほとんどいない」と。

「回し蹴りが貧弱、左の蹴りは使えない、突きも貧弱…」と考え出すと、いくらでもダメなところは出てくる。そして、「もう少し練習して、これらが納得いってから受けた方がいいんじゃないのか…」という考えが生まれてくる。こういう考え方を、一般論として完全に否定することもできないかもしれません。しかし今回の私は、「自分の持っている、数少ない手持ちの武器で、どこまで前に進めるか!」という考え方で臨みました。

十人組手時点での私のスペック
・身長:177cm
・体重:58kg(多分、現空研一般部の中でもワースト3に入ります)
・「前蹴り」が、ときどき周りから少々褒められるくらいには使える(長距離武器)
・「突き」はなんとか使える(近距離武器)
・右の「下段回し蹴り(ローキック)」

あとは、奇襲的な技として、「内回し蹴り」と近距離の「後ろ回し蹴り」。これらが、何とかモノになっているのではないかと思えるものです。普通の回し蹴りもなんとか使えますが、習熟度、スタミナの消耗度とそれに対する効きを考えると、今回使いすぎると最後までもたないだろうと考えました。

以上から、

「距離があったら前蹴りを出してダメージを狙う、
 近距離になったら下突き、中段、上段の突きをとにかく出す」

ということを一番の大枠としました。その他の技は、適宜、出せそうなチャンスがあったら、その場の判断で出す。手持ちの武器と、自分の少ないスタミナを考えて、一番現実的で効果がありそうだと考えた結果出した結論でした。ハタからみて、華麗でもなんでもない地味な組手に映るかも知れないとも思いましたが、見た目ではなく、実効力としてこれが今の自分にできる一番の方法だろうと。

 ここまで書いたことが、大まかな「戦略」です。


 もう一つ「戦略」ではなく、今回、自分に課した課題がありました。それは、

「近距離を怖がらない
 近距離で突きを出す」

ということです。「何だ、上の戦略とかぶっているじゃないか」と思われるかもしれませんが、これはまた別の意味があります。

 上の方でも書いたように、私はお世辞にもガタイが言いとはいえない体格をしています。格闘技経験も過去にはなかったですし、身体をぶつかり合わせるようなスポーツも経験がありません。前蹴りが一番の得意になっていったのも、ガタイのいい人と距離を取れるから、本能的に身体がこれを一番にチョイスした結果であると常々思います。

 そういう人間が、体格のいい、強力な突きをもっている人と戦って、突きの間合いになったときにどう感じるか?私の場合、何かに例えるとすれば、「拳銃を突きつけられているような状態」に近い感覚に陥っていました。「相手が引き金を引けば、どこを打たれても致命傷を食らう、どこでも打たれたらもうそこで終わりだ、一発でももらえば終わりだ」そういう恐怖。いくら組手前に、理屈で「近距離で戦えるように、近距離に入ったら恐れずに、突きを出そう」そう思っていても、いざ組手本番になると、恐怖の感覚に支配されて入れない。とにかく距離をとって、長距離の武器で戦おうとしてしまう。現空研内でいえば、Hosoさん、Ryutaさん、Kawabeさん、Nito兄弟さん、等のタイプの人とやっていて、距離が突きの間合いになると、言いようのない恐怖感というものがいつも心に生まれていた。私のようなタイプで、入門してインファイトよりも、アウトファイトのスタイルから入っていった人だと、もしかしたら同じような感覚がわかる人がいるかもしれません。

 そういうことを踏まえて、アウトファイトのみでやっていくことに限界を感じ出していたこと。そして、もし十人組手を達成できたとしても、近距離になったら恐怖を感じて、まともな打ち合いができない状態で黒帯をもらうのは、自分としては気が引けるという思いがあって、少々そういうことを十人組手の前から課題として頭に入れていました。

 それと、今までの審査のときの組手を振り返ってみると、普段の組手とは違って、その審査の組手で経験したこと、体感したことというのは、なぜか身体の中に強烈に残る。そして、そこから、一歩、何か飛躍できたということがいくつかありました。おそらく、「連続で」、「倒れてはいけない」、「審査である」、などなどの要因で、ある種の極限状態に近い感じになるからなのだと思いますが。

 課題としてきたけれど、「トラウマ的な突きの間合い」を克服できたとはまだ言えない。今回の十人組手で、それを同時に達成したいと考えたのです。

突きを出せるようにならなければ、これからやっていけないだろうという思い。そして、

「刃の下は地獄なれど
 一歩ふみこめば 極楽あり」

宮本武蔵がこう言っていたと、以前読んだことがあるのですが、空手の突き合いでも、この言葉がさす心境があるのではないかという思い。今回の極限までいけそうな組手で、もしもこの感じの一端でもわかればいいな、と考えていました。

以上、主に十人組手前の自分の中にあったものです。



◎実際の十人組手

 さて本番です。当日はOriさんの車で、Hagiさん、Nakanoくん、私の四人で合宿の宿に向かいました。私、Oriさんという十人組手を控えた人間が半分で、Nakanoくんも6人組手なので、それなりに神妙な車内になるかと思いきや、いろいろとバカ話に花が咲き、笑いの絶えない道中となってしまっていました。これでいい意味で緊張がほぐれたように思います。「いまさら、緊張して固くなってもしかたないや」というような雰囲気でしょうか。

 ネットからプリントアウトした地図が少々わかりにくく、散々迷いまくったあげくに、なんとか1,2時間前に到着できました。そこでお昼を食べ、稽古・審査開始です。審査は白帯から始まって、緑、茶と上がっていくので、結局十人組手が始まったのは4時くらいでした。

 さて当日の私の対戦ラインナップです。
十人組手ラインナップ「1〜3人目:茶帯一級(十人組手挑戦者の総当り)、4〜5人目:緑帯、6〜7人目:茶帯、8〜10人目:黒帯」

 要所要所、覚えているところを書かせていただくと、まず2人目のChokkouさんでお互い熱くなりすぎ、打ち込みまくりすぎました。同時に十人組手をやったOriさん、Chokkouさん、Takeshiくんと、始まる前は「いやぁ、初めの3人はお互い体力温存するようにしようね」なんて笑いながら話してたのに、みんな始まったら、やっぱ全力の面構えですよ。特にChokkouさんは、ちょっと鬼気迫るものがありましたよ。前蹴りと突きをチョッコウさんの腹に入れまくったのに、チョッコウさんはよけもせず全部受けて、絶対効いてると思うのに、ずっと笑ってるし。むきになって攻撃しまくってしまった。ここでかなりスタミナを消耗。この直後にクラさんに、「お前、ペース考えろよ」と耳打ちされてしまう。

 なんとか3人目を終え、緑帯2人のところで、ちょっと体力を回復させていかないと、もう絶対最後までもたん!倒れる!と感じてしまう。ここから数人は、組手2分間の前半1分は、できるだけフェイントと前蹴りで距離をとることでアウトボクサー的な戦い方をし、なんとか体力を回復することを心掛ける。後半1分で近距離戦をしかけていこうと。ここで、強敵Horikomiさんとあたり、寸止めで止めなきゃいけない顔面を結局3発も入れてしまいました。本当に申し訳ないのと、自分の突きを全然制御できていない未熟さを痛感しました。

 次の6〜7人目の茶帯。ここもなんとか自分の戦い方を貫けて、スタミナは消耗したものの満足のいく形にできました。そして最後の黒帯3連チャン。8人目のYoshidaさんはなんとか切り抜けることができましたが、さすが黒帯、そこまでで何とか騙し騙し、ちょっとづつ、ため込んでいた体力がここで一気に限界に。

 ここに来て、もう体が熱くて熱くて仕方がない!体中から汗が噴出してるし、熱を持っているし、分厚い道着を着て、その上に胴体に防具もつけている。メチャメチャ熱いサウナに、サウナスーツ着て入っているような感覚でした。一瞬、審査中ということが頭から吹っ飛んで、「あ〜〜〜、もう何がどうなってもいいから、全部脱ぎ捨てたい!」という衝動にかられました。なんとかそれを理性で押さえつけ、最後の二人。

 これがもうスタミナとかほとんどなくなっている状態で、最後の黒帯二人という感じでした。9人目Hataさん、10人目Kawabeさん。2人とも入門時から稽古で顔を合わして、そして組手をしてきた人たちですが、2人ともに強烈な突きと重〜い蹴りをもっている、正に自分にとっては天敵タイプです。スタミナ切れもあって、もうここにいたって、手を前に出して、「突きらしきもの」を出すということぐらいしかできなくなっている自分。ときどき、後ろ回し蹴りや前蹴りを出すことはできましたが、普通の回し蹴りなんか多分一つも出せてません。9人目Hataさんが終わって、試合の合間に、初めて我慢できずに座り込んでしまいました。

 そして最後の一人のKawabeさん。開始してすぐ、左脇腹に、コンパクトなのに重〜い、回し蹴りの洗礼を受ける。そのときの状態だと、もう逆に「いやー、容赦ないなぁ、はっはっは」と心の中で思わず笑うしかないような、そんな心境でしたね。押されまくりながら、突きや蹴りを受けつつ、何とか気持ちだけは前に出して、同時に、手や足も形はどうあれ前に出すということをやったつもりです、自分では。そして、なんとか10人目Kawabeさんが終わるまで立ちつづけることができました。

 というわけで、なんとかめでたく十人組手完遂!ということに相成りました!終わって、礼をしたあとは、もう、すぐに倒れこんでしまったけれど、拍手されていい気分でした。10人目最後の方で、周りから応援の声援を受けていたのをかすかに覚えています。終わって20分くらい、腕全体がしびれて全然動かなかったりしましたが、とにかくなんとかやり遂げた!



◎十人組手を終えたあと、ふりかえって考えてみること、思うところ

 なんとかやり遂げられました。やり遂げた直後に思ったこと、同時に2つ。「やった!」ということ、そして「まだまだ、俺はもう全然未熟だ!」ということでした。

 組手前に考えていたように、ああいうふうにして組み立て、その結果、十人組手を達成したことは嬉しいです。ですが、当たり前のことですが、回し蹴りはお粗末だわ、突きの威力も納得できないわ、最後の方でろくにまともな戦いができてなかったわ、スタミナはないわ・・・上げていけば、いくらでも出てきました。でも、やっぱり、達成したのは嬉しかった。なんか、そういう相反する2つが渦を巻いているっていう感じでしたが、悪くない気分というか。この2つがいい感じで混ざり合うと、「これからも、やることいっぱいあるぞ!」という感じの前向きモードになれる気がしました。

 さて、これを書いているのは、十人組手が終わってから2ヶ月ほどたっているのですが、その後、どういう感じになっているか?課題として出していた「近距離を怖がらない、近距離で突きを出す」はどうなったのか?
 
 自分で言うのはおこがましいようにも思うのですが、最近そのことに関しては一皮むけたのではないかという実感があります。「刃の下は地獄なれど 一歩ふみこめば 極楽あり」という言葉を、達人でも何でもない、若輩者で未熟者の私が、今回経験したことから浅はかな解釈をさせていただくと、「強力な武器を持っている敵を遠くから見て恐怖していると、こちらの想像力の中で、相手の武器が実力以上に強大な武器であるかのような妄想がどんどんと育ってしまう。けれど、一歩踏み込んでその身をさらし、相手の驚異的武器を身をもって体験すると、その武器の正確な実力データを手に入れられ、そこから『アレルギー的に全てを恐れる』ということを克服できる」ということなんじゃないのかな、と。達人の方や、宮本武蔵に詳しい方が、「その解釈は間違いだ」と指摘されるかも知れませんが、もし間違っていたらすみませんとして、とにかく今回の経験で自分の身体がわかったことはそういうことだ思います。

 もう少し具体的な説明をしてみます。この十人組手で、スタミナ切れでサンドバック状態になっても、気持ちと身体を前に出して、攻撃を打たれるということで、身体が覚えてくれたこと。それは、上で出した拳銃の例えでいうならば、「打たれても、全部が全部、致命傷にはなるわけじゃない」ということです。強力な突きを入れられても、身体をわずかにずらしたり、腕による受けでわずかにインパクト位置をずらしたりすることで、「全ての突きが即、致命傷になる」とは限らないということ。その情報を身体が手に入れ、知識としても仕入れることができたんだと。もちろん脅威には違いないのですが、「一発でも打たれたら即終わり」という恐怖は消えました。まだ未熟ではありますが、必要以上に恐れずにインファイトをすることができるようになりました。

 そして今現在、新しい帯をいただき、稽古で黒帯を締めさせてもらうようになりました。黒帯は、今までの白、緑、茶などの帯に比べて、ちょっと太いです。まっさらなので、まだちょっとほどけやすかったり、しっくりこなかったりもします。けれど、黒帯で初段ということになりました。「この私が?」とも思ったりします。技術に関しても、まだまだ、全然出来ないことの方が、膨大に多いです、当たり前ですが。「黒い帯を締めて、道場で無様なとこ見せてると、もう、こりゃちょっと恥ずかしいな」と、少々気を引き締めつつ、ちょっとずつでいいので、焦らず強くなっていけたら、今そう思っています。

 最後に。この十人組手は、あのときの周囲の声援と、それまでの稽古をともにし、時に飲みながら語らい、みんなでお互いに良い影響を与えあう関係を築けている現空研の皆さん、そして園田会長の考え方に基づいた現空研でだからこそ出来たと思っています。格闘技をやろうと志し、現空研に入門できたことは本当に幸運であると感じます。どうもありがとうございました。これからも末永くよろしくお願いします。



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