筋力をつけるには、ただやみくもに訓練してもダメなことは「誰でもできる最強筋力トレーニング」で述べました。
技を身につけるときのポイントはどこにあるのでしょうか。
技を身につけるには、基本動作の反復練習が必要です。
どんな分野についても言えることですが、どんな高度な技でも、全ては基本動作の組み合わせです。
例えば二段蹴りを行うには、十分なジャンプ力が必要です。
そして空中で前蹴りを出して、素早く引き、反対の足で再度蹴りを出してまた引くといった動作を着地前に行わなければなりません。
この技はジャンプと空中での左右の前蹴りという3つの動作の組み合わせです。
この技をマスターするにはまず、前蹴りが素早く正しく行えなければなりません。
この稽古を積みます。次ぎにジャンプして片足だけの蹴りを試みます。何度もやるうちにコツが飲み込めてきます。
片足でできるようになったら次ぎは両足を使う稽古です。
イメージトレーニングも重要な要素です。
自分が二段蹴りをやっているイメージが頭の中に描けなければ、実際にできるわけがありません。
頭の中のイメージをより明確にするのが、疑似動作による稽古です。
二段蹴りは、「壁を駆け上る」という疑似動作を行い、あるいはイメージすることでその感覚をつかみやすくなります。
いったんこつをつかんだら、後はひたすら反復トレーニングを行います。
慣れてきたら、空中の対空時間が長く感じられるようになってきます。
稽古を積むことによって一旦ジャンプしたら、空中から相手をじっくり観察できるようになってきます。
このときは相手の動きがスローモーションビデオを見ているように良く見えます。
相手の隙を見つけたら、余裕を持って一の蹴りを出します。
相手はかろうじてこれを避けました。
あなたはそのころ空中の最高点あたりにいます。
余裕をもって第二の蹴りを繰り出します。
見事に相手の胸に蹴りがめりこんでいきます。
ジャンプ力とスピードのある人なら空中で第三の蹴りまで出せます。
技を出すときは力はどうでしょうか。
ある程度その技をマスターしたら次ぎは力を抜くことを覚えなければなりません。
力んで技を出しているのは、その技が完全には身についてない証拠です。
力まず、意識上は力を抜いて繰り出した蹴りや突きは、受ける方にとっては、力感あふれた蹴りや突きなのです。
衝撃力測定器で計測してみるとよく分かるのですが、素人にパンチ力を測定させると、皆力いっぱい殴りつけます。
経験豊かなボクサーは一見軽くパンチを出しますが、素人の5倍くらいの値を簡単に出してしまいます。
最高の値を出すパンチは力みかえって出すパンチではないのです。
スキーのジャンプや体操競技の鉄棒や平行棒は人間業とは思えないような高度な技ですが、それをマスターする手順(原理)は同じだと思います。
この力を抜くという事と筋力をつける事とはどういう関係にあるのでしょうか。
最終的に力を抜くのだったら、苦労して筋トレを行う意味がないのではないか。
これは全く違います。
筋力が十分ある人が、基本から丹念に積み上げた技をマスターし、その技を力まずに出すということが最高の結果を生むのです。
わかりやすく言えば、「リラックスした力持ちの名人のパンチが一番効く」ということです。
ピアノの名人が軽々としたタッチで信じられない位大きな音を出します。
おそらく本人の意識は力は完全に抜いているはずです。
しかし、もし測定器でタッチの強さを測定したら、物理的には素人では絶対出せない位の大きなパワーが計測されるはずです。
このように、物理的な強大なパワーは、基本的にはそれを出すための筋力が必要ですが、高度な技を身に付ければ、その力というものは、本人の意識とは逆に「力を抜いた」状態で発揮されるものなのです。
ですから同じ稽古や訓練といっても、力を付けるための稽古と技を身に付ける稽古はそのアプローチも方法論も全くことなったものです。
ここを混同して間違ったトレーニングをしている例が結構多いのです。
例えば、筋力トレーニングを行うとスピードが落ちるといった根も葉もない定説(?)にまどわされている選手やコーチが多数います。
どんなスポーツや武道でも特に格闘技においては筋力はどんなにあってもありすぎて困るということはありません。
あればあるほど良いのです。
しかし、筋力をつけるということは必要条件の本の一つであり、これだけでは殆ど意味はありません。
技を身につけてこそ筋力が生きてくるのです。
そして、技の習得は筋トレとはまったく別の稽古が必要だということです。