ヒット カウンタ

K村師範のこと

 
K村師範とは現空研の前身拳誠会の初期からの付き合いですが、あの明るい性格と飄々とした人間性はちっとも変わっていません。

K村師範の空手は私から見て大きな転機が2度ありました。
最初は、彼の初めての10人組み手です。

那須で夏季合宿を行ったときです。
彼はもともと運動神経のかたまりで、パワーはそれほど無かったのですが、格闘センスは抜群でした。

相手に力を出させないというか、相手の動きに逆らわず流しながら自分の土俵で勝負してしまうというタイプでした。
那須の合宿での試合はビデオが残っていますが、今見ても本当に流れるような試合展開を続けています。

しかし、この組み手は完遂しませんでした。
なぜなら、彼は不運なアクシデントで手のひらを裂傷するという大怪我を負ってしまうからです。

このビデオを見る度に悔やまれてなりません。
このまま続けていけば何人勝ち抜いたかわからないような試合展開だったからです。

どんなときでも明るくふるまう彼ですがさすがに無念さが表情にでていました。

2度目の転機は、彼が筋力トレーニングに力を入れ始めたときです。
彼と組み手をしていて、戦い方に変化を感じました。

今までの軽妙なステップワークやカウンターを狙うといった空手から正面からまっすぐ前蹴りで狙ってきたり、接近しての中段突きが多くなってきたのです。
しかも、突き、蹴りともに重い。

あるとき裸になった彼の上半身を見て皆驚きの声を上げました。
見事に逆三角形になった上半身と異様な肩の筋肉のもりあがりです。

やがて彼の空手は今までとはまったく違ったものになりました。
動きに一切の無駄がなくなりました。

飛び跳ねるようなフットワークは姿を消し、足に根のはえたような磐石の体性から力感あふれる突き蹴りを出すようになります。
しかし、もともと持っている反射神経には衰えがありませんから、ここというときは電光石火のすばやい動きもできます。

やがて彼が2段、3段になった頃は、稽古においても一本負けをするというシーンは殆ど見ることができないくらいになりました。
その後彼の空手は円熟の度合いを高めていきます。

もともと彼の性格は温厚で明るく、社交性もありますから、道場で、後輩や子供に対してもいつもニコニコしています。
また、忍耐力もありますから、相当腹に据えかねる事態になっても彼が怒って大声出したり、きれたりするシーンを見たことがありません。

このように良い事づくめのK村師範ですが、たった一つ大きな弱点があります。
それは酒に弱いということです。

弱いというより全く飲めないと言ったほうが正確です。
忘年会や幹部会等でホステスやコンパニオンをあげてコリャコリャのドンチャンサワギをやっても、彼だけは酒を一滴も飲めないのです。

現空研の幹部は皆酒豪です。幹部候補生や新人にも多くの酒豪がそろっています。
その中でたった一人酒を飲めない。

ある宴会のとき、ジョッキを見ながら彼の言った一言が今も耳にのこります。
「一度でいいからこのビールを一気に飲んで、うまいと言ってみたい」

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