2009/07/11
空手だけには限らないが、武道やその他のスポーツなど体を使う競技に怪我はつきものである。
特に、空手は突き、蹴りといったもともと相手を痛めつけるための技術の稽古を行うのだから互いに怪我を押し付けあっているようなものだ。
しかし、強くなるための稽古でお互い怪我をして弱くなっていくのでは本末転倒である。
多少の怪我は強くなるためにはしかたがないという考えもあるが私は基本的にこの考えには賛成しない。
私の子供の頃のスポーツ根性物のマンガは、大半が精神主義のかたまりで、根性第一主義だった。
運動部の「しごき」問題なども頻発していた。
青春の一時代をスポーツに打ち込んで燃焼させるのも人生を彩る一つの方法かもしれない。
極端に言えばプロのスポーツ選手になってそれで飯を食う道を選ばなければ、若いころ多少怪我をしようが体の一部に軽い障害が残ろうが通常の社会生活にさしさわりがない範囲だったらそれほど困ることもない。
しかし、武道はスポーツと違う。
武道的生活とは生涯を武人としての生き方を貫くものであり、いつでも武道家としての動作が可能でなければならない。
もちろん精神的な強さのみを追求する考えもあるが、それとて体はなるべく健康で自由に動かせる状態である事に越したことはない。
スポーツも本来は長く続けられることが本義であろう。
私も若い頃は怪我の事などあまり重きを置いていなかった。
もともと空手はその修行方法は昔からどちらかと言えば無茶に近いものが伝統として多くあり、巻きわらで拳ダコを作るなんていうことも、小さな怪我を集積させているようなものだ。
サンドバックを蹴ったりビール瓶で脛を叩くなんてのも同じだ。
そもそも鍛えるとは軽い怪我を繰り返して体の超回復を狙った行動なのだ。
確かに鍛えるためには多少の怪我もやむをえないという考えも成り立つ。
特に空手においてはそうした傾向が強い。
しかし、私は現空研の前進である拳誠会時代の荒行でいくつかの反省点を得た。
強くなるためにはガンガン打ち合う稽古をするのは大変効果的だ。
しかし、若い頃ならまだしも社会人となり仕事と空手を両立させていくためには、怪我で何週間も休むわけにはいかない。
そして、怪我をも顧みない稽古が必ずしも最強への最短距離ではないということも悟った。
私自身、入院したり、何ヶ月も稽古ができない怪我はこれまで数え切れないくらい経験している。
腰を痛めた時は、ある有名な外科医に車椅子宣言を受けた事もある。
膝は反対側に折り曲げた事もある。
足の指は骨折したことが無い指の方が少ないくらいだ。
右手の薬指は腱が切れていて今でもプラプラだし薬指の拳頭は完全につぶれていてまっ平らというかむしろ陥没気味のまま固まってしまっている。
これらの多くは若い時負った怪我によるものだ。
腰と膝は徹底的な筋力トレーニングで筋肉でガードすることで復帰できた。
腱の切れた指は手術しないと完全には戻らないと言われたが自己流のリハビリでほぼ日常生活はもちろん空手にも支障ないところまで修復できた。
指に関しては空手よりピアノが弾けなくなった事がションクが大きかった。
日経新聞で空手とジャズピアノのことで記事にしていただいた時も指の骨折について触れたが、腱を切ったのはあの後だった。
大した事は無いだろうと放っておいたのがまずかった。
ある時ピアノを弾こうと思ったら薬指が思うように動かない。
薬指が自分の意思で動かせないと言う事ははピアノを弾くということに関しては壊滅的な打撃だ。
しかし、これも自己流のリハビリ運動(指の筋肉トレーニング)で約2年間かけて70%程度の回復を得た。
ピアノに関してはもう一つ有利な点が私にある。
それは私がやっている音楽がジャズである点だ。ジャズの特徴はアドリブにある。
ジャズピアノは基本的には即興演奏である。
つまり自分の弾ける指だけ使ってできるフレーズを作ればよいのだ。
現在でも指のリハビリは続けている。
薬指は自力では挙げることはできないが小指を挙げることでその副作用で挙げることができ、それを利用して薬指を使う私独自のテクニックを編み出した。
ただ、これを長く続けると小指が痙攣を起こしてしまうのが欠点だ。
多分小指を動かす神経の一部も損傷を受けているのだろうし使えるわずかの筋肉や腱も酷使されることで疲労するのだろう。
現在は小指の痙攣を起こさずに薬指を動かせる方法を開発中である。
多分脳梗塞で動かなくなった部位を動かすリハビリと原理は同じだと思う。
しかし、私の場合は空手の経験を生かして極限まで筋肉を鍛え込む方法を知っているのが強みだ。
「鍛え」の原理は「普通に」動くところを鍛錬することで「普通以上に」動くようにすることだ。
だとしたら、「普通以下」しか動かないところでも、適切に鍛錬すれば、今よりは動くようになるはずだし、「普通程度」までもっていけるかもしれない。
私は普通程度で止めるつもりはないが。
膝も薬指と同じで筋肉のよろいで固めてある。
現在現空研の会員も膝を痛めている人は多い。
私のように若い頃の障害を抱えている人や最近怪我をした人や、怪我ではないが慢性的な痛みを抱えている人も入れるとかなりの人数になるだろう。
現空研などの空手道場だけでなく世間一般に膝の故障を抱えている人は想像以上に多い。
テレビのコマーシャルでも膝に関する薬や健康食品、サポータの類は本当に多い。
それだけ痛みのある人が多い証拠だ。
膝は、人体の関節でも複雑な構造を持っているし、常に体重を支えている部所なので、故障も起こしやすい。一旦怪我をすると日常生活にも支障をきたす。
アメリカの大リーグで活躍している松井選手も最近膝を手術し数ヶ月のリハビリの後現役に復帰した。
一般の社会人にとっては手術に関しては仕事との兼ね合いもあってなかなか実施にふみきれないケースもあるだろうが、長い人生を考えた場合は専門家の意見も良く聞いて長い目で最良の方法を選択したい。
生涯空手、生涯武道という観点から考えると最強への道はいかに怪我を防ぎながら、そして治しながら稽古を続けられるかにかかっていると言っても過言ではない。
ただ闇雲に全力で打ち合って稽古していれば強くなるといったものではないのである。
現空研では、当初より防具を充実させることで怪我を極力避けながらフルコン空手を実践してきたが、それでも時々怪我は起きてしまう。
何とか怪我を無くす方法はないかといつも考えている。
今考えているのは、年齢別で攻撃部署を制限する方法だ。
怪我は日常生活に支障の無い軽いものならむしろ数多く受けることで体の部位を鍛えることになるが、その日常生活に支障が出るレベルが年齢によって違う事に着目しようというわけだ。
特に下段蹴りは、一定以上の年齢の者あるいは膝に障害を持つ者や体がまだできていない若年者には禁止手とするというのも手だ。
もちろん、一定の条件で下段攻撃に対する防御は徹底的に稽古する。
まだ具体的な形にはなっていないが、試験的にはすぐに始めるつもりだ。
あらゆる年齢層、体力、障害を持つ者など全ての空手をやりたい人が、怪我を最小限に抑えられる方式を模索している。
怪我を最小限に食い止めることが結局は最強への最短距離だと信じるから。