現代空手道研究会動画集2の解説です。
上級者と初心者の組み手
上級者は初心者との組み手では、当てません。
ビデオであたっているシーンがあっても、それは当たっているのであって当てているのではありません。
音はしますが、ほとんどは空手衣との接触音で、初めて見る素人が感じるような強いものではありません。
当たったのと当てるのは威力がぜんぜん違います。
初心者が上級者の打撃で怪我をすることはほとんどありません。
初心者の怪我の大半は突き指や、相手のひじなどを蹴ることによる自損的傷害です。
大半の初心者は上達した後、昔はボコボコにやられていた、といった感想を持ちますが、実際には上級者の愛情あふれた手加減の組み手でしかありません。
心に余裕がないから、そういう風に感じるのです。また、それで良いのです。
上級者は、いろんな意図をもって大げさな技をしかけることがあります。
それは、初心者にいろんな技をかけられることを体験させるためです。
それでも、実際に当てることはしませんし、当たる場合でも脱力して効かないようにします。
また、初心者が息がすぐ上がるのは、スタミナや持久力といったエアロビクス機能が不足しているのではありません。
恐怖心のせいです。
恐怖心は体の機能を高める反応をしますけど、非常事態という認識なので、スタミナの配分なんて考慮は働きません。
めいっぱいのアドレナリンの噴出と、フル回転の心臓の鼓動をはじめます。
短時間の最大能力を発揮させてしまうのです。当然長続きはしません。
これが、初心者が息があがる原理です。
組み手は常に最悪のケースが理論的に存在するわけですから基本的に恐怖心は消せませんし、消してはいけません。
恐怖心は、人間が危機状態での生存をかけての体の反応であって大変重要な感性です。
これのない人は大自然の中ではすぐ死にます。
重要なことは、状況に応じて恐怖心をコントロールすることです。
場数を踏んでないと、恐怖心は必要以上に出過ぎる傾向があります。(未知のリスクに対して安全マージンをとるのは自然の哲理です。)
上級者は、必要十分な恐怖心にコントロールするすべを自然に身につけていますから、必要最小限の消耗でおさえることができるのです。
はたからみると上級者は驚異的にスタミナがあるように見えますが、かならずしもそういうわけではありません。
上級者同士の組み手
上級者同士でやる場合は、多少当てる場合があります。
しかし、防具をつけてないときは、お互い、怪我をしない程度に加減しています。
上級者同士が防具をつけたときは加減はしません。
鍛えてない拳がづたづたになるのはこのケースです。
この動画の中の私と中鉢師範の組み手は、打つ感触と打たれる感触を新鮮に保持するためのもので、フルコンです。
しかし、勝敗にこだわる組み手ではないので、あえて打たせ、あえて打つとシーンが繰り広げられます。
しかし、あくまで稽古であり、鍛錬と技術の維持向上のためのものであって、甘い手加減はしませんが、怪我をしない、させない配慮はお互い十分にあります。
お互いリアルファイトで効かせる技の応酬と防御に徹すれば、これとはまったく異なるシーンが展開されることは言うまでもありません。
ときどき聞こえる「シュッ」とか「ウッ」という声は出しているのではありません。
胸板に中段突きの重いのをもらえば、急激な肺の圧迫で喉から空気が噴出します。
その音です。相手のこの音を注意深く聞くことで効き具合がわかります。
逆に自分のダメージを冷静に知る目安にもなります。
打撃を淡々とお互いに楽しむ。
こういう心境を気負いなく理解できたら、あなたも上級者の仲間入りです。
上級者といえども自分の技に満足したり、慢心してはいけません。
上級者どうしで、「まあまあなあなあ」の、ふ抜けた組み手をやってはいけません。
常に、命のやりとりを前提にした護身の心を忘れないことです。
楽しみの中にも「必死」の心は失ってはいけません。
恐怖心と仲良くなること、楽しむこと、相手を思いやること、が本当の意味で理解できなければ、本気の組み手を行う資格はありません。