次の挑戦者は、現空研一打たれ強いAsa君だ。
Asa君は、本当にいつもにこにこしていて彼が怒ったり、苦しそうにしたシーンを一度も見たことがない。
さすらいの酔っ払いも彼の性格を絶賛する。
もっとも酔っ払いが絶賛する相手は普通じゃない者が多いので額面どおり受け取るわけにはいかないのだが。
私は彼に防具を付けてもらってサンドバッグの代わりになってもらう事をトレーニングのメニューに入れている。
どんなパンチをいれてもニコニコしているからだ。
「いやー効きました」と言いいながらニコニコしているのである。
彼の空手は、とにかく前に前にでていく空手である。
打たれ強さも武器の一つだというのを身をもって証明している人物である。
しかし、その太い体と手足やしぐさからは想像するのも難しいのだが彼は元陸上選手で100mを11秒で走る俊敏さももっているのだ。
絶対そういう風には見えないけどね。
彼の最初の対戦者は自己申告で挑戦する白帯のSue君だ。
資格試験受験で頑張っている彼は、とにかく真面目である。決して大きくはない体で果敢に向かっていくが、Asa君は余裕でさばく。
時折強烈な中段の突き蹴りを叩き込む。
まずは流しながらの一本目が終わる。
2人目のHagi君は身長174のバランスのとれた体型である。
もともとスピードがあり、格闘技センスもあるので、タイミングの良い突き、蹴りでAsa君を攻め続ける。
さすがに打たれ強いAsa君も、反撃を開始する。
しかし、後半へのスタミナを考えて深追いはしない。
3人目のKado君もバランスのとれた体型である。職種が運送業であるのでなかなか時間が自由に取れない中熱心に稽古に通っている努力家だ。
真っ向から攻めるのは良いのだが、そこはキャリアの差、中段に強烈な回し蹴りをもらう。
技ありを取られるも、フルタイムの2分間を戦い抜く。
4人目は、外資系の大手コンピュータメーカーのSEをやっているSuzu君だ。
彼は、現空研に入るまで格闘技の経験はないのであるが、体格もよく(177Cm
72Kg)、運動神経も良いものをもっている。
これまで受けに回って流し気味に試合を進めていたAsa君であるが、この回から積極的に前に出るようになった。
相手が体力のある場合、受けに回ると一方的に押し捲られ、流すつもりが逆にサントバック状態になって消耗させられてしまうことを知っているからであろう。
この戦いも2分間フルタイムになった。
5人目は、本来もっと後半に登場すべき実力の持ち主である茶帯のKi君だ。
組み合わせの都合上5人目に登場することになった。
彼は、元体操選手で柔軟性とパワフルな筋肉の両方に恵まれた強豪である。
開始早々彼は中段、上段への休み無い回し蹴りを放ってきた。
Asa君はこれにカウンター気味に突き、蹴りを当てて反撃するが、なかなか思うようにいかない。
Ki君の回し蹴りから上段への後ろ蹴りを危うくもらいそうな場面も展開する。
しかし、持ち前の前へ前へ出る圧力と忍耐力で何とかKi君の猛攻をしのいだ。
6人目は他流派から現空研へ入門した緑帯のYosi君だ。
彼も決して大柄ではないのだが空手は極めて積極的で、同じように前に前にでるタイプだ。
ときには、これが災いして強烈なカウンターを取られることもあるが、これに臆するところなど微塵も無い豪快な点が彼の持ち味である。
果敢に打ってでるが何せ相手は現空研一打たれ強いAsa君である。どうしても地力の差がでてしまった。
7人目は大学3年生のOse君だ。
彼は身長は180Cm近くあるのだが、体重がない。
Asa君のような重量級との対戦だとその分どうしてもパワー負けしてしまう傾向がある。
開始早々はスピードのある突き蹴りで攻めていたが、Asa君の強烈な前蹴りを食らいダウンを喫してしまう。
判定は技有りであったが、一本を取られてもおかしくない蹴りだった。
続行を言い渡されたのであるが、ボディーを効かされてしまった体はもはや自由に動けない。
Asa君のたたみかける攻勢に耐えるだけで精一杯で、そこにまたもや前蹴りの技有り。
合わせ一本で終了。
8人目からは強敵の黒帯が続く。
最初の黒帯はダチョウハンターだ。
彼は良く上がる足を武器に上段、下段を変幻自在に使い分ける。
Asa君も我孫子道場で何度も手合わせしているのでそこらへんは十分に分かっている。
先手を取ろうとAsa君が構えた瞬間ダチョウハンターの先制の左足による下段内関節蹴り、そのまま上足底を返して中段の前蹴りをけん制で出す。それを捌こうとした瞬間右足をいきなり上段へ回し蹴りを放つ。
Asa君はモロにこれをもらってしまった。
その後反撃に出るがことごとくダチョウハンターにさばかれてしまいなかなか活路を見出せない。その後もダチョウハンターは後ろ回しや中段の回し蹴りを的確に決めていく。
Asa君は一本こそ取られなかったが、さすがにダメージの蓄積もあり終始押されぎみであった。
9人目は、長身のSi初段だ。
彼は昔は細かったのだが、大学に入りフットボールをやり始めて筋力トレーニングの成果もでてきたのか、体重も80Kg級になりパワーも一段とアップしてきている。
もともと、スピードも柔軟性もあったので技の向上とともに急激に破壊力が増してきている。
一方体力の消耗が著しいAsa君がいかに打たれ強いとはいえ、この攻撃をしのぎ反撃するのは至難の業だ。
果たして、Si君の冷静でかつ強烈的確な攻撃が始まった。
同じ中段蹴りでも身長の高いものが十分膝を挙げてそこから打ち下ろすように蹴る前蹴りの威力はすさまじいものがある。
また接近してからのレバーを狙った鍵打ち(フック)も破壊力がある。中間距離からの鎖骨打ちも交え、Si君の技のデモンストレーションのような様相になってきた。
それでも、Asa君は信条である「前に」という姿勢を最後まで崩さなかった。
いよいよ最後の10人目である。
10人目は15人組手を達成したサムライ2段だ。
いつもにこにこしているAsa君であるが、さすがに笑顔はない。
審判の始めの号令とともに、サムライの容赦ない攻撃が始まった。
Asa君も負けじと反撃する。
しかし変幻自在のサムライの動きにはなかなか付いていけない。
要所要所で重い突き蹴りを受けてしまう。
絶対に下がらないをモットーにするAsa君もさすがに押されてしまう場面が目立つ。
それでも足を止めて果敢に打ち合う姿は精神はまったく萎えてないことの証明だ。
回りから「頑張れ」「下がるな」の声援の中2分間の激闘は終わった。
審判の終了の号令のあと、拍手と豪雨で文字通り嵐の中サムライ2段がそばに駆寄ってAsa君の激闘を称えた。
Asa君10人組手完遂。