全盲のピアニスト岩井のぞみさんの事 

2014/04/09


私は桐朋学園大学同窓会のコンピュータシステムの仕事をさせてもらっている。

いろんな優秀な演奏家の方と知り合えるきっかけにもなっているかもしれないし、私の趣味のジャズで一緒に演奏させてもらったり、助けてもらう機会になっているかもしれない。(勿論技術的には私とはレベルがまるで違う事は言うまでもない)

 

今回ピアニストの岩井のぞみさんの話を聞いた。

彼女は全盲だそうだ。

 

4歳からピアノを始め、桐朋学園大学付属子供のための音楽教室・桐朋女子高等学校音楽科を経て桐朋学園大学音楽学部を2009年に卒業後、研究科に在籍した後渡米。

これまでに1997年PIARAピアノコンクール全国大会にて最優秀賞、2005年ロゼピアノコンクール第1位、2006年大阪国際音楽コンクールピアノ部門第2位、2010年MTNAコンクールテキサス地区大会にてhonorable mentionを受賞。
また、同年TEXAS CHRISTIAN UNIVERSITYで行われたコンチェルトコンクールを征し2011年にTEXAS CHRISTIAN UNIVERSITYシンフォニーオーケストラと競演。
同年イタリアで開催されたINTERNATIONAL MUSIC COMPETITIONにてhonorable mentionを受賞。
また、ルイジアナ州で開催されたTHE WIDEMAN INTERNATIONAL PIANO COMPETITIONでは特別賞を受賞。
という素晴らしい経歴の持ち主でもある。

 

現在はアメリカの音大の大学院在学中。

 

今回コンピュータシステムの全面改訂を行っている時岩井のぞみさんの話をうかがったのである。

彼女は現在は全く目が見えないのだが幼い頃から大学生くらいまでは弱視ではあったけどまだ見えていたそうである。

 

生まれつきの全盲と途中から全盲になった人はその条件や環境は随分違うと思う。

楽器は小さい頃に徹底的な訓練を行わないと大成は難しい。

 

小さい頃体で覚えた基礎を元に大人になりながらテクニックや音楽性を開花させていくのだ。

それが途中で身体条件が変わるという過酷な状況に投げ出されたのである。

 

私は純粋にそうした技術的な問題で興味を持った。

現空研の空手の稽古でも技と足を使わない組手や手を使わない組手を行うのも、そうした不自由な条件での人間の可能性の更なる進展を期待してのことである。

 

それでも健常者であればいつでも通常の状態に戻れるという安心感のもとでの訓練にすぎない。

彼女の場合は与えられた条件の中でその道で進むしかないだ。

 

私は彼女のCDを早速聴かせてもらった。

音がきれいだ。

 

彼女の緻密でかつ若々しいエネルギーを感ずる演奏もそうなのだが、録音が素晴らしい。

言葉としては適当ではないかもしれないがアナログ的な情感があふれている。

 

両者の素晴らしいマッチングによって音が歌われている。

ことさらダイナミックレンジを広げて迫力を出そうしたり、多数の近接マイクで人工的な「美しい」音を造ろうとはしていない。

 

彼女が喋っているようにピアノが語りかけてくる。

実は私はまだ彼女に会っていない。

 

その彼女がこの4月25日日本で2回目のリサイタルを行う。

私はありがたくご招待を受けたのでお会いするのを楽しみにしている。

 

実はその日は私の出身校の修猷館のミニ同窓会が築地であるし、福岡から来る友達もいるのだが私は彼女のピアノがどうしも生で聴きたい。

主催者の田中(修猷館時代の喧嘩仲間)がこの日でなくては時間がとれず、羽田野(弁護士・九州大学柔道部総監督)も来る。

 

しかし私は岩井のぞみのピアノがどうしても聴きたい。

ということでお孫さんを現空研で預かっている同窓生の灰渕に骨折ってもらって同窓会とは別建てで1週間前倒しでミニミニ同窓会を行ってもらい、私はリサイタルに行くことにした。

 

岩井さんの 詳しい情報は彼女のオフィシャルサイトを見てほしい。

 

また彼女のアメリカの大学の彼女の紹介動画があるのでこれもぜひ参照してほしい。

 

私はかねてから現空研の黒帯にピアノをやらせたいという願いを持っている。

ピアノと空手に何の関係がある、と訝しげに思う人もいると思う。

 

私は私自身の体験からこの両者には不可分の関係があると思っている。

具体的には二つの観点がある。

 

一つは純粋なテクニックの面から。

空手もピアノも訓練を行わなければどんな潜在的な能力があっても全く花開かない。

 

極めて単純な基本を積み重ねる事によって超人的な技巧を得ることになる。

あり得ないスピードで自在に鍵盤を操る能力や、コンクリートブロックを素手で簡単に破壊する能力は一般常識では奇跡的な能力だと言って良い。

 

もう一つは文化的というか大げさに言えば哲学的な考察になるのだが、これはまた別の機会に述べたいと思う。

 

話は岩井のぞみさんに戻る

彼女の演奏を聴きたいと思った動機に彼女の選曲がある。

 

いきなりバッハのイタリア協奏曲から入る。

専門家でなければあまり知られていない曲なのではないかな。

 

これは私にとっては忘れられない曲なのだ。

私がジャズをやりたいと思ったのは、ジャックルーシェというピアニストのプレイバッハというアルバムを聴いたのがきっかけだった。

 

これはクラシック音楽(特にバッハ)をジャズで演奏するという当時では珍しい試みだったのだが、それが私に衝撃を与えた。

ずっとクラシックのピアノだけを勉強していた(させられていた)私にとって、ジャズははるか遠い世界だったのだ。

 

これがあり得ない(と思われたか)技法でクラシックとジャズが融合している。

聴きなれたバッハのインベンションや平均律曲集が自由自在にアドリブで編曲されていく様はまるで手品を見るようだった。

 

その中で、特に記憶に残ったのが「トッカータとフーガニ短調」それとこの「イタリア協奏曲ヘ長調」だった。

大学受験の頃だったと思う。

 

「トッカータとフーガニ短調」はブラスバンド部の田中からもらった楽譜があったのだが、「イタリア協奏曲ヘ長調」は持ってなかったのですぐヤマハに行って買ってきた。

ジャックルーシェ風に演奏してみようとやってみたができるはずもない。

 

しかし当初クラシック的には何の変哲もない(と私には思われた)「イタリア協奏曲ヘ長調」が実は大変な曲なのだと気づかされた。

それほどテクニックを要する曲ではないのだが、本当に弾きこなすのは至難な技だと下手なりに分かったのだ。

 

今回彼女がどういう意図でこの曲を選んだのたは知らない。

何でも自在に弾きこなせる彼女があえて選んだのがこの曲ということは私にはとても興味のあるところなのだ。

 

いろんな面で今回のリサイタルは楽しみだ。

 

もし現空研会員で興味がある人がいれば、何人かは一緒に行けると思うので声をかけて欲しい。

もっともその4日後は現空研空手道大会なので、相当心に余裕は必要だが。

 

昔横綱若乃花が千秋楽で優勝が決まる日、心をしずめるため映画館に入ったのだが、そこに一人でゆっくりと映画を見ている大きな人を発見する。

それが明日対戦する横綱栃錦だったという話もある。

 

 

※その後 岩井のぞみさんのアメリカの大学院の指導教授ウンガー先生の推薦文を拝読させてもらいました。

 現時点では公表されていなので全文掲載するわけにはいきませんが一部内容紹介程度なら構わないということで、私が感じていた「なぜ」に対する答えになっている部分のみを紹介させていただきます。

 

ウンガー先生は彼女が目が不自由だということに対し、

私は、岩井のぞみの師として、彼女が紡ぎだす音楽とその理解の奥深さの中に、彼女自身が非常に多くのことを吸収してきた姿を見てとりました。彼女の本能的な感情と理論的な解釈は常に音楽の高いレベルで融合しています。いったい一人の人間がこんなに多くの能力を有することが本当に可能なのかと問う人もいるでしょう。しかしそれは、彼女が視力を失ってしまったが故に、視力以外の感覚を激しく駆使し、音楽の神髄に手が届くまでに理解を深めていったからこそ到達出来た領域なのだと思います。

 

また、私がなぜバッハのイタリア協奏曲を選曲のトップにもってきたのだろうとう疑問に対しては

プログラムはバッハ、メンデルスゾーン、そしてドビュッシーの三人の作曲家の作品で構成されています。前半はドイツに想いを馳せたもので、後半はところ変わってフランスへと皆さんを誘います。このドイツ、フランス両国に纏わる曲の本質を、並外れた直感力と感性に導かれるままに、素直に彼女は表現しています。ドイツ言語が有する子音の強い鼓動がドイツ音楽を現し、流れるようなフランスの言語がドビュッシーの音楽に思想を吹き込み、音楽の長いフレーズはその両言語に伴う特徴を現すものであると彼女は解釈しました。楽譜に無数に散りばめられた音符一つ一つの背後にそのような意味を見出し、そしてまたそれを聴衆に届けることに彼女は意味を見出しています。その飽くことのない探求心はまさに尊敬と称賛に値します。

 

また、

私にとって彼女を生徒として受け持ったことは大変幸運な、・・・・・・演奏は魅惑的で一瞬にして夢を見ているかのような気持ちにさせてくれますし・・・・・純粋な音色は他の誰にも真似ができません。唯々圧倒されるばかりです・・・・・

と最高の賛辞が続きます。

 

先生の信頼もとても厚いことがわかります。

 

 

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