ヒット カウンタ

痛みについて

 

根性のあるやつは腕がおれても、金的つぶされても向かってくる、というのは、いくらなんでも極端でしょう。
という趣旨のメールをいただきました。

前にも、類似のご意見をうががい返事もしてないので総括的にご返事いたします。
結論から言えば極端でもなんでもありません。

喧嘩であるとかあるいは大掛かりな試合などといったアドレナリンが出まくる場でなくとも根性のすわった人ならわりと平然としているものです。

机上の空論をしてもはじまりません。
事実をお話しますのでご判断ください。

例えば、我が現空研の稽古や昇段審査の試合でも事故というケースがあります。
木村師範は10人組手の途上で指と指の間が裂けるという怪我を負いました。

また少し前ですが試合中に中指の関節をはずし指が反対側に曲がり骨が肉を破って露出するという怪我をしました。
しかし、いずれの場合も平然としており、実戦の場で必要があれば戦いを続けていたであろうと感じさせる態度です。

どちらもビデオに詳細が記録されています。
後者は怪我の具合までクローズアップされています。(撮影者はあのオーエさんでした)

大声を出して右往左往しているのは回りの人間であり本人極めて冷静沈着事に対処しております。(木村師範自身がレスキュー隊員だということもあることはあるのですが)


拳誠会時代の伯爵3段は私との組手の最中私から足払いを受けその場で転倒したさい指を突き指しました。
この時も関節が外れ中指の長さが半分くらいに、太さが3倍くらいになりましたが、平然としており、近くの接骨院まで本人は歩いて行きました。


FUさんは当時楽器店の店長でギターの名手でありなおかつ空手も強いという人でした。
彼は日本刀を持ったチンピラに押しかけられたさい素手で渡り合いその日本刀をもぎ取ってこれを制したという武勇伝の持ち主ですが、彼も傷を受けても一切ひるんでいません。

また彼は稽古の最中防具を足の指先で蹴ってしまい、骨折して指が90度横に向くという怪我をしましたがその時も平然として、指の形を見て笑っていました。

我々もつられて笑いましたが、痛いという意味ではかなりの痛みだったと思います。


あばらを折られたり、鼻血を出したり、生つめをはがすなどということもそんなに珍しいことではありません。
先々週はスケート競技の日本チャンピオンである
KU君は組手審査の相手をしている最中親指の生爪を剥がしてしまいました。

それでも時間一杯組手をした後、私に「この怪我をどう対処したらよいでしょうか」と平然と喋っていました。
爪は私も何度も剥がしていますから、どういう経過をたどって直っていくかを説明しました。
念のため病院に行くことを勧めたのは言うまでもありませんが。

その時審査を受けていたHさんは腕の骨折がまだ完治していないのに本人のたっての希望でサポータとバンドで保護しただけけの腕で組手に挑んだのです。
(Hさんは有名なパン屋さんで先週は、ぶらり途中下車(だったかな)というテレビ番組で常磐線沿線のおいしいパン屋さんとして紹介されていました)
もちろん、痛いなどとは一言も言いません。

こういった体験は何も現空研特有のことではありません。

大なり小なり殆どの武道家は経験していることでさして驚くべきことでもないと思います。
結構飲み会などでは怪我の大小自慢や品評会が行われるのはどこの道場でも同じです。

怪我は武道にかぎらず球技や体操あるいはダンスやバレーの稽古でも少しハードなことをすれば起こり得ることでしょう。
怪我をした本人よりもむしろ回りの方がびっくりしたり大騒ぎするものです。

本人は意外とケロっとしているケースが多い。
稀に神経質な人で大げさに痛がる人もいますが、多分痛いのではなくびっくりした感情を痛いという言葉で表現しているのです。

誤解しないでいただきたいのですが、痛がらない、あるいはケロっとしているということは傷が軽症であるとか、事態が深刻ではないということではありません。
本人がいくらケロとっしていても管理者や責任者は迅速かつ適切な対処をすべて安全側にふる気持ちで行うべきです。

私が言いたいことは、傷の深さや障害の大きさには関係なく人は緊急時というか臨戦体制のときは意外にケロッとしているものだということです。
これが主体が暴漢であった場合にいろいろ困ることが起きるのです。

骨が折れたり金的がつぶれるというのは大変な事態なのですが、極度の興奮状態であれば、そんなに肝っ玉の座った者でなくとも意外と平然としているというか、勢いを抑えることができないケースがままあるのです。

もしあなたが女性で海外で暴行をうけそうな場面に遭遇したとします。
あなたが空手や柔道の有段者であったとしても、例え相手が武器を持っていなくとも戦うという状況を選択するのは相当な覚悟を必要とします。

テレビや映画の主人公のように関節技をきめて相手が「イテテテ」と取り押さえられような場面は現実では起こりません。
それをまず知って、戦うと状況を選択するかどうかを悩むべきです。

戦うという状況を選択するのが全ての可能性の中で最適だという最悪のケースに遭遇したのであれば、それは修羅へのルビコン川を渡ったことになりますから、あなたは相手を痛みによって制するのではなく生理的あるいは精神的に制するまで手を緩めるべきではないのです。

まして、武道の素人が、週刊誌やテレビのワイドショーなんかで紹介された安易な護身術などで、相手の痛みで暴行を制するという考えは甘いという警告をしたいのです。

通常男同士のストリートファイトであれば、ケースは2分します。
私の数少ない経験では、

精神的に萎えた相手は直接の痛みを与えるまでもなく降参します。(こちらが多数)
しかし、痛みだけでは参らない根性のある(?)やつもいました。(少数)

痛みというのは体の異常を受けた体のセンサーが脳というCPUにデータを送り、受け取ったデータを解析した結果の信号(アウトプット)なのです。
痛みという信号が正確であるには、次の前提があります。

センサーは正常である。
CPUは正常である。

怪我であってもセンサーが壊れない程度、またアドレナリン、ドーパミンなどの脳内物質の生成も正常な範囲で収まる程度。
つまり、日常の小さな事故や怪我の場合のみ痛みと言う信号は正常に発せられるのです。

ですから例えば日本刀で腕を切り落とされるといったような異常事態では、センサーも破壊されますし、CPUも正常ではありえないですから、通常の意味の痛みなんかは感じないと思います。

異常な行動を取る暴漢はそうした行動に入っている時点で既にセンサー、CPUともに狂っているケースが多いので痛みでこれらの行動を制することができると考えるのは極めて危険だと言いたいのです。

注意)

空手未経験者および初心者の方へ

このコラムを読んで現空研の稽古は骨を折ったり指が裂けたりすることが日常茶飯事なのだなと誤解しないで下さい。
普段の稽古ではこいう事故は起こりませんし、起こしません。

長い間にはこういった事故もあったということです。
おそらくこの程度の事故はどこの道場でも起こったことはあり、また寸止め、フルコンにかかわらずあり得ます。

現空研は防具の工夫や稽古体系その他で怪我なし無事故を大きな目標として掲げています。
安全性に対しては常に細心の配慮をしております。

むしろ事故率は最も低い部類にはいるのではないかと自負しております。


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