Ikeda君にとって、今回の10人組手ほど過酷なものはなかったと思います。
その理由は、当日言い渡された10人組手だからです。
Ikeda君はその日まで6組手のつもりでいたはずです。
私は過去にもこのように突然本人の想定外のことをやらせた事があります。
本人にとっては無茶苦茶な話ではあるのですが、私とて長い空手暦で多くの空手家を見てきた観察眼にはそれなりの自信を持っております。
本当に無理な事は言うはずもありません。
本人の最近の実績や当日の体調、そして何より全体から発散される気力など総合的に判断してこういう提案を行います。
とは言っても、本人にとっては無茶苦茶な話であることには変わりはありませんが。
まず゛Ikeda君ですが実績としては高校時代から始めた柔道、そして大学時代から続けている空手(防具付空手二段)と20年近くの武道経験を持っています。
そして、各種空手大会での入賞経験や総合格闘技大会にもチャレンジしそこでも入賞する実力を持っています。
最近では今年散打の大会にNito兄弟と出場し、硬式空手の高段者に勝利するなど結果を残しました。
常に自己の技を向上させようとする姿勢はすばらしいものがあります。
現空研の稽古や、他流派との合同稽古でも、積極的に相手の技術を学ぼうとする意欲が感じられます。
しかし、腰痛など私も含めて多くのスポーツマンも苦しめらる事が多い爆弾も抱えた状態での10人組手は本当に壮絶でした。
しかも対戦相手が
1人目 Nito(弟)君 緑帯 今年1月の顔面ありの散打大会で最優秀選手賞
2人目 Nakano君 緑帯 青山学院 剣道二段
3人目 SuzukiR君 茶帯(10人組手完遂)
4人目 Kitajima初段(和道流二段)
5人目 Kawabe初段(少林寺拳法三段)
6人目 Takahasi初段 東京理科大学
7人目 Ikematu初段(元ボクサー)
8人目 Kin初段(元体操選手)
9人目 Siba二段 身長190Cm
10人目 ロボコップ 師範三段
無茶苦茶元気の良い緑帯二人と残りは黒帯という布陣です。
こうした強力な対戦相手の中終始落ち着いた組手を展開したIkeda君ですが、終盤は闘志を隠そうとせずフルパワーの応酬となりました。
最後のロボコップ師範には技有り2本を取られましたが、終了間際には絶妙のタイミングで強烈な中段突き技有りを返し10人組手を完遂しました。
写真は平成17年1月16日 散打有効大会で大活躍した時のもの
黒:Ikeda
平成17年2月28日
Ikeda 初段
職業 SE
東京都 在住
先日は、審査の機会をいただき、ありがとうございました。
十人組手の感想を記したいと思います。
この時の私の状況としましては、前月末にぶり返した腰痛により、右足に痺れが走るというマズイ状況でした。
私は、2年前に椎間板ヘルニアで入院した経緯があり、医者からは次に(腰を)やったら手術だからね、という怖い脅しを頂戴している身でして、腰痛には敏感にならざるを得ないのです。。。腰の状態は一進一退で、腰痛が出た後は、無理をしないようにして付き合ってきたのですが、今回のように、足に痺れが走る状況は久しぶりで、道場稽古も独り稽古も自粛し、養生していた所でした。
審査の日は、最も遅い日に照準を合わせ、それまでになんとか動けるようにする、ということを目標に、何とかいけるかな、でも不安は残るな、というレベルにまで回復したのが、審査一週間前のことでした。
16日の我孫子道場にて、Nito(兄)さんが十人組手を行う、ということでしたので、これに参加して、自分の調子を測ろうと思ったのですが、仕事で道場到着が遅くなり、残念ながら、お相手はできませんでした。
この日に、Ikomaさん、Nito(兄)さんの十人組手の壮絶さを目の当たりにしました。
特に、手の骨が折れても、そのまま組手を完遂したIkomaさんの精神力には、執念を感じました。
しかし、この時点では、十人組手と言っても、自分が挑むのは半年以上後の話だと思ってましたので、大変だなぁ、とは思っても余り危機感は抱いていませんでした。
審査前日のことですが、この時点では勿論、6人組手だと思っていますので、余り緊張もせず、グッスリと熟睡しました。と言いますか、12時間以上寝続けましたから、爆睡と言っても良いかもしれません、兎に角、思う存分寝ました。この辺り、同じ日に十人組手に挑んだTanakaさんと比べると、かなり恵まれていたような気もします。
審査当日、目黒道場に着き、園田会長に、審査を受けますのでよろしくお願いします、とご挨拶をしました。
その後の事です、会長からのお話しがあり、10人組手をやってみないか、ということでした。
人間、余りに意表を突かれると、言葉上の意味は理解できても、一瞬、理解不能になるものです、何度か聞き直してしまいました。
自分が十人組手を行うとは、予想もしていませんでしたから。。。
私は職業柄(SEをやっています)、上流工程からキッチリと進捗スケジュールを決めて仕事を進めていくスタイルに慣れきっているためか、余り冒険はせず、堅実な線を追求する傾向にあります(泥沼プロジェクトにハマルのは嫌ですから)。十人組手についても、それに挑むに当たっては、充分な準備を持って、ある程度自信を得てから挑む計画でした(私の中では)。
そんな私の思惑とは関係なく、私の相手を務めていただく対戦相手が、決定されていきました。
なんと、黒帯の方が、7人。。。 SuzukiRさんも、十人組手を達成されていますから、実質、8人ですね。。。この時は目の前が真っ暗になるような気持ちでした。
正直、落ち込みましたが、一通り落ち込んだ末に、「戦わずして、既に負けている自分」に気が付きました。
十人組手は、自分にとって、未知の世界。経験が無いのだから、それは仕方ない。しかし、やる前から負けている今の自分の姿は、「みっともない」…
みっともないまま終わるのだけは嫌だ、できるだけの事はやりたい、例え、十人達成できなくとも、悔いを残さずに挑みたい、そんな気持ちになりました。
ようやく、「よし、やろう」という心境になりました。やるからには、腹を括ってかからねばなりません。
今の自分の状況を考え、そこから何ができるのか、どうすれば良いのか、を考えました。
まず、シャドーをして体の動き、感覚を確かめました。。。 久しぶりの稽古なので、技にキレがありません。
…とは言え、今更キレが取り戻せるものでもありませんから、これは仕方ないと割り切りました。
組手から遠ざかっていましたので、おそらく、組み手の感覚を取り戻すには、2,3試合必要であろう、そのために、序盤は飛ばさずに感覚を取り戻すのに費やそう、と考えました。
スタミナについては、事前にスタミナ稽古をできなかったため、自信がありません。
私が、これだけは避けたい、と思っていたのは、スタミナ切れによる失速と、集中力の欠如によって相手の攻撃をマトモにもらってしまうことでした。
ある程度打ち合うのは必要だけれども、深追いはしない、勝負では無いので、「負けない組手」をやるようにしよう、そう考えました。
ステップワークについては、数人であれば、終始ステップを踏むことで攻撃から逃げることは可能だけれども、10人はとても持たない(そもそも私はステップを使わないタイプ)、しかし、要所要所で取り入れるということは有効であろう、と考えました。
そうこうする内に、十人組手が始まりました。
ハッキリと記憶に残っているのは、2人目くらいまでです。
組手に集中する余り、記憶が余り残っていません。
今、この瞬間、その場で行われていること、これから起こるであろうこと、それに対して最も適切な対処をすること。。。 意識が「今この瞬間」に最大限に集中し、記憶を残すという処理にまで意識が回らない、集中した状態、これまで経験した試合の中で、集中力が高まった際に経験したことがありますが、これだけ長い時間集中が続いたのは、初めての経験でした。
気が付けば、組手が終了していました。終わってみれば、あっという間に感じました。
終わってみて、「自分では無理」だと思っていたハードルを、越えることができたのかな、と感じました。
園田会長は、及び腰、尻込みしていた自分を、文字通り、尻を叩いて下さったのだな、と思います。
私は、性格的に、「組手」は好きではありません、どちらかと言えば、やらないで済むのならば、避けたい方ですら、あります、組手大好きなニトさん兄弟、SuzukiRさんとは対極に位置するものと思っています。それでも、やらなければ進歩も向上もありませんから、続けているわけですが、それも、自分に自信が持てないからということもあるから、と思います。
今回、準備ができていない中での連続組手を達成できたことで、自分もそこそこできるのではないか、という、「思い」を得ることができました。
十人組手は、言うまでもありませんが、相手あってのことです、一人でできることではありません、今回お相手していただいた方々に、感謝致します。
また、組手の間に「ファイト!」などの掛け声をかけていただいたこと、組手終了時に温かい拍手をいただいたこと、お相手していただいた方達に、温かい笑顔で祝福してもらったこと。。。 一人で戦っていたワケではなかったことを、感じました。
今回は、貴重な体験をさせていただきました。本当にありがとうございました。