バブルがそろそろ始まったころ、あのオーエさんがゴルフの会員権を買ったと得意になっていました。
河川敷の安いやつですが、それでもどんどん値段が上がってもうかったもうかった、と言っていました。
せっかく買ったんだから、皆でそのゴルフというものをやってみようじゃないか、
ということになりました。
もちろん、全員ゴルフは未経験です。
「あんまり、へたじゃ中に入れてもらえんかもしれんぞ」
というわけで、10人くらい、できそうなやつを選抜しました。
選抜といっても自薦ですから、まったくあてになりません。
牛は翌日ゴルフの「うちっぱなし」といわれる練習場に行きました。
「玉がぜんぜん真っ直ぐに飛ばん」と言っていました。
とにかく、練習場にも行ったことがない連中ばかりですから、何がおこるか分かりません。
私の知り合いのゴルフがうまいと日ごろ自慢しているものに二人ばかり来てもらうことになりました。
ハンディーが10だか20だとかいう、我々から見ればプロみたいなものです。
まず、服装からしてわかりませんから、いろいろレクチャーを受けます。
道具はレンタルや友達から借りることで何とかなりました。
「牛」は何とこの日のためにゴルフ道具一式を買ってしまいました。
カーボンとかいうシャフトのやつです。
「高かった、高かった」と言っていましたが、その後は一回も使ってないそうです。
当日の朝、待ち合わせてゴルフ場にきてびっくりしました。
皆やけにカラフルなのです。日ごろの空手衣のモノトーンの反動にちがいありません。
特に、オーエさんのダンディーぶりにはびっくりしました。
緑のズボンにピンクのシャツです。
格好だけは皆プロゴルファーでした。
さすらいのよっぱらいはウイスキーのポケットビンでもう十分できあがっています。
なのにゴルフも上手い。ふしぎだ。
始まってからが大変です。
もたもたやると後ろの組が迷惑するので、とにかく早く、早くと知ったかぶりの友人がせかせます。
めちゃくちゃながら、わきあいあいにラウンドが進んでいきました。
「へたくそー、バーカ」
突然、土手の上からわけのわからないことを叫ぶ鉢巻きオヤジが出現しました。
確かにへたくそですが、バーカと言われるすじあいはない。
皆で無視していましたが、この鉢巻きオヤジだんだんエスカレートしてきます。
次の組にはオーエさんがいます。
いやな予感がしましたが、こっちもヘタなゴルフに夢中になっているので、そのまま先に進んで行きました。
うしろの組でなんか小さくない声がしているような感じはありましたが、私はトライバーショットに集中していました。
気が付くと土手の上を脱兎のごとく逃げていく鉢巻きの姿が目にとまりました。
ゴルフの後の一杯もまた、美味い。
「オーエさん、さっきの鉢巻きに何か言ったの?」
「いえ別に・・・・」とオーエ。
多分鉢巻きのオヤジは急用を思い出して走って帰ったのでしょう。
私と他何人かは、その後、しばらくゴルフにはまっていました。バブルが崩壊するまで。