2013/12/19
中段突に関しては、道場でもお話するし、このホームページでも時折触れている。
中段突は最も基本的な空手の技であるが実は難しいという事は、いろんな空手家が語っている。
伝統空手でも難しいのだが、現空研ルールでは特に難しい。
なぜなら、同じフルコンであっても顔面なしのフルコン空手で行われる中段突きと顔面ありのフルコン空手である現空研ルールでの中段突は状況が全く異なるからだ。
伝統系であれば、試合において中段突で相手を倒すことは許されない。
顔面と同じルールで寸止めルールが適用されるからだ。
しかし、そのルールを外しても伝統系のやり方での中段突では鍛えている相手に対してはまず倒すことはできない。
顔面を効かせることと中段を効かせることは全く質の違う原理が働くからだ。
顔面で効かせるというのは、脳への衝撃で脳震盪を起こさせる事が必要となる。
つまり脳を揺さぶることが条件となる。
この威力の目安は、拳の運動量(質量×速度)とは必ずしも正比例しない。
大切な事は頭蓋骨を効果的に揺らす事である。
物理的に言うと体と接触している頭の部分の固有振動数に同期させるような衝撃を効果的なポイント、方向に加える事が要件となる。
具体的には顎の先端を鍵突(フック)で当てるなどは効率的な打ち方となる。
頭の質量に対して拳単独の質量は小さいので、拳の実質的な質量を増やすことは効果がある。
昔の不良学生がよくやっていた喧嘩の時に石を拳の中に握るなどはそういった意味では理に適っている。
安全のために考案されたボクシングのグローブも、鼻が折れたり、歯が落ちるなどの怪我は防ぐ事ができても、脳への衝撃はかえって増す場合がある。
空手のように空拳であれば、打ち方で実質的な質量を増やす事である。
打撃の瞬間拳を握りしめ、手首を固め、肘から先を一つの物体のようにすれば、質量は拳プラス前腕ということになる。
この打ち方は伝統系でも見られる。
しかし伝統系の場合、試合用としてはもっぱらスピードが重視されるので手首は全然固定されてない選手が多い。
そのため伝統系の選手が現空研ルールで試合を行うと手首を痛めるケースが多い。
ということは実戦というかルールなしのどつきあいでは手首を痛めてしまうということになる。
それでも、目標が顔面であれば何とかなる。
人間は本能的に顔面を打たれないように逃がす方向に顔をそむける。
また、それができなくても頭はボデーに比べるとはるかに質量が小さいので、結果的に反動で手首を痛めずに済むことか多いのである。
道場でも時々言うが、相手が素人であれば、顔面に対する打撃は、顎を引いて首を固め、オデコで受ければ、大抵の場合相手が拳や手首を骨折するか致命的な傷害を負うことになる。
こちらはほとんど痛みもない。
顔を背けることを前提で出している素人のパンチは少しくらい喧嘩慣れしているチンピラでもこんなものである。
無抵抗や逃げ腰の相手しか殴ったことのないチンピラはなまじその経験からこうした脆弱なパンチをだす。
本当に骨のあるファイターと素手の殴り合いの場数を踏んでいる者は自分の拳の弱さをいやと言うほど知っているのでフルパワーで相手の頭をなぐったりはしない。というかできない。
現空研のようにひたすら手首を鍛え、手首の固定が習慣化できて、拳頭を鍛えた者だけがフルパワーでの頭への打撃が可能になる。
実戦においての上段突はこれくらいのリスクがあり、拳の鍛錬とはこういった状況に対応するためのものであることを再確認しておいてほしい。
伝統系の選手でも、武道空手を意識している者はこうした事は知っていると思うし、昔はそうして皆拳を鍛えていた。
スポーツとして、またルール内での勝利を第一とする者は、知識としては知っていても稽古の優先順位としては低いものになることは否めない。
それでも、伝統系の上段突は中段突に比べると実戦性は低くない。
問題は中段突だ。
中段で効かせるのは本当に難しい。
ひたすらスピードを重視した最近の伝統系の突きでは全くと言って良いほど効かない。
実際に当てる事でルールが成立しているボクシングでボデーの打ち方は熟知しているはずのボクサーでも素手でボデーを効かせるのは簡単ではない。
もちろん全然鍛えてない素人のボデーの話ではない。
フルコンルールを意識してある程度ボデーを鍛えている者に対しての話だ。
顔面の場合は仮にヘッドギアなどで守られていても脳が揺れれば倒れる。
しかしホデーはそうはいかない。
筋肉質のボデーでは筋肉の鎧で跳ね返される。
また、厚い脂肪があればそこで衝撃が吸収される。
厚い筋肉の上に厚い脂肪層が重なっている力士のようなボデーはちょっとやそっとの突で効かすことはできない。
こうしたボデーに効果的に効かす突き方はないのだろうかいうのが今回のテーマだ。