不気味の谷 

2012/11/30


今週(2012/11)は大学の講義(コンピュータ技術論)で「デジタルデバイド」と「不気味の谷現象」についてお話しました。
デジタルデバイドとは情報格差のことで、コンピュータやIT機器を使いこなせる層とそうでない層で社会的な様々な分野での不平等が生じていることを指します。
損をしている立場の人たちを情報弱者という言葉で言うこもあります。


一方不気味の谷現象というのは、東京工業大学のロボット工学者森政弘さんが提唱した人間らしく作られたロボットに対する人間の感情的な反応の変化についての研究です。
ロボットは外観や動作が人間に近づくにつれより好感的共感的になっていくが、ある時点から突然強い嫌悪感に変わるというものです。やがて人間と見分けがつかなくなると再び強い好感に転じ、人間と同じような親近感を覚えるというものです。

 

 

(出典 ウィキペディア)

 

最近人間ソックリのアンドロイドを使った演劇なども上演されています。

演劇の内容や評価はさておいて、そのアンドロイドに対しての一般人の感情はやはり「不気味の谷」現象の例外とはならないでしょう。

 

 

「デジタルデバイド」と「不気味の谷現象」、この二つの概念はシステム論、技術論としては直接には関係ないのですが、もっと深い人間性や社会論的な立場では深いつながりがあります。

もっと卑近な経済的な観点からも重なり合う概念です。(経済学を卑近と言っているわけではない)

 

情報社会はユビキタスという理想論を見てもわかるように、もともとは弱者にやさしくといった観点は常に述べられてきました。

ユビキタスとはもともとラテン語で「神はあらゆるところに存在する」という意味から転じて「いつでもどこでも」コンピュータの便益に浴することができる社会システムといったとらえ方で語られます。

 

つまり大型コンピュータの端末を一握りの高度な技術を持ったシステムエンジニアが操作するのではなく、日常の家電製品や公共設備の中にさりげなく組み込まれチップが人間の利便性、快適性を補佐する役目を果たす、例えば部屋が暗くなれば自動的に明りがついたり、温度や湿度を自動的に調節する、あるいは目や耳の不自由な人にはそれを補佐したり介助するようなシステムが動き出す、こういったことをそこにコンピュータがあり、誰かが明示的に操作するのではなく自然に人間と溶け合って動作するとういう一種のユートピアを目指すものです。

 

しかし、現実はどうかとみれば、弱者にやさしいはずの様々なIT設備は、それに慣れない老人や情報弱者と呼ばれる人々にとってはかえって厄介で面倒なものとなっています。

駅の自動改札や様々なカード類での乗車システムは慣れた人には大変便利で快適なものですが、田舎から出てきた老人にとっては何がなんだかわからない世界です。

 

銀行の窓口でも昔なら何でも担当者に話したり紙に書いたりしていた手続きが、ロボットのような端末の前で機械的な操作をしなければなりません。

理想論と違って弱者にとって事態はますます悪くなっているのです。

 

デジタルデバイドとはこのような現象を総称する言葉です。

しかし技術者達(私も含めて)は、これは自動システム(ロボットと言いましょう)が機械的であり人間のような温かさや融通が効かないからだと考えていました。

ですから、冷徹で機械的なロボットをより人間的にすることがこうしたデジタルデバイドを解消する王道だと信じていたのです。

 

ですから、様々な人間的ななアンドロイドが実験的に作成されてきました。

アシモ君のようにいかにもロボット的な外観のものは極めて好意的に歓迎されています。

 

あのたどたどしい歩きや走りは「かわいい」と表現されることが多いです。

しかし、外観を蝋人形のように人間そっくりにし表情なども変化させられるようなアンドロイドに対しては、「不気味の谷」現象が現れてくるのです。

 

「かわいい」という感情が少しづつ減ってきて、「気味悪い」感情が芽生えてきます。

外観や動作が人間に近づくにつれ「かわいい」から「気味悪い」に変化するのはなぜでしょう。

 

工業的なロボットは今やほとんどの大規模工場では常識的に使われています。
自動車工場を見学すると、それらの工業用ロボットにはそこで働く人たちに「ニックネーム」を付けられて、日常会話でも擬人的な取り扱われ方をしています。

「今日は太郎は機嫌が悪いな」とか。

 

しかし、それらのロボットは外観は人間とはかけ離れており、千手観音の手を機械に置き換えたお化けのようなものが多いです。

決して鉄腕アトムのような外観ではありません。

 

もし、これが外観が人間と同じような工員ロボットだったらどうなるのでしょう。

人間的という観点からいけは時々ミスもする方が生々しくなります。

 

「いやこいつ時々つまんないミスもやるほど人間的なんだ、だからかわいいね」となるでしょうか。

そのミスで誰かが怪我をしたとしたら、そのロボット(アンドロイド)は叩き壊されるのではないでしょうか。

 

その場合は器物損壊なのでしょうね。

まさか傷害事件なんかにはならないですよね。


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