懸案であった新しい防具のテストを行った。
現空研は、拳誠会当時から防具に関しては常に関心をもっていた。
それは、私の空手に関する基本的な考えに端を発する。
強さの実証と安全性の両立という相反する命題をぎりぎりの線で確保したいということである。
強さの実証は、防具なしで実際に技を極めてしまえば(フルコンタクト)有無を言わせず実現できる。
しかし、これでは万人のための武道としては稽古に対してリスクが大きすぎる。
では、防具を着ければよいではないかということで始めたのが拳誠会であった。
剣道の胴をはじめ他武道他流派が取り入れている様々なタイプの防具も試してきた。
大きな成果はあったと思うが、やはり弊害も散見されるようになってきた。
今までの寸止めの基本がそれなりにできていれば、防具は本来の防具としての役目をはたすのだが、最初から防具組手だけで稽古すると防具を前提とした組手の癖がつきやすいのだ。
一言で言えば技で極めるとういより体力で圧倒するほうが有利になるという点だ。
これはある意味格闘の原点をさらけ出している事実ではあるが、本来自分の技や体力で防ぐべき相手の攻撃を防具という道具で防いでいて、その前提(甘え)で自分の技を繰り出そうとする。
護身術(正当防衛や緊急避難的な攻防)としての空手を考えた場合、日常では防具なんて着けていない。
したがって防具を着けた状態での攻防で最適化を目指しては本末転倒になってしまう。
かねがねこういう問題点を認識していたのであるが、具体的な解決策は見出せないでいた。
しかし、今回幾つかの防具でテストしてみた結果はなかなか良好だったので、その感想と今後の課題について述べてみる。
今回テストしたものは全て中身がウレタンのみである。
厚さはものによって多少の差があるが、せいぜい2Cm程度のものである。
実際に着けて、打たせてみるとかなり効く。
というより着けていないのと大差ないことがわかる。
実際に皆に試してもらうと、最初は誰もが「これじゃ防具なしのフルコンと同じだ」と感じてしまう。
確かに、お互いに腹などを突かせると着けても着けなくても大差ないと感じてしまう。
しかし、実際に組手を行うと感触は一変する。
やはり、着けると着けないのでは大変な差があるということが実感できる。
効き方がまるで違うのである。
防具としての役割は十分かどうかは別にしてに果たしているということは大抵の経験者は感じたと思う。
ただし、組手において防具として十分だと感じるのはやはり、上級者あるいは中級以上の者である。
初心者にとっては負担は大きい。
これは、当然のことである。
中級者以上の者は、すでに相手の攻撃に対して体自体が反応できるようになっている。
今までの経験で、仮に防御ができない場合でも体さばきで相手の攻撃の威力を半減させる動きが身についているのだ。
柔らかい(リラックスした状態)動きや、瞬間の受け流しでエネルギーをモロに受けないような技が自然に出ている。
また、そうでなければならない。
一方初心者にとっては、この程度の強度では防具としては不十分である。
なぜなら、初心者は相手の攻撃を殺すような捌きはできないのが普通である。
つまり棒立ち状態で相手の攻撃をモロに受けてしまう結果になる。
これではたまったものではない。
上級者でも電柱のように突っ立った状態で突きなり蹴りなどをモロに受けたのではかなり鍛えたものでもそれなりのダメーシを受けてしまう。
今回のテストでは、防具としての役目は概ね果たしていたのであるが、初心者にとってはやはり負担が大きいのと、上級者にとってもタイミング良く入ったり、一瞬の無防備状態のときもらったりするとかなり効くということが実証された。
初心者はやはり寸止めを十分にやって受けや捌きがそれなりにできるようになって本格的なフルコンに入るという従来路線を継続したいと思う。
一方中級者以上の者にとってはこうした軽量防具によるメリットは大変大きいと思う。
防具なしのフルコンとデメリットと防具を着けたフルコンのデメリットをかなりの部分解消できる。
従来の組手(フルコン、防具)のメリット、デメリットを羅列してみる。
防具なしフルコンのメリット
実戦に近い感触を得ることできる。
実際に効く技と効かない技が実証できる
格闘技に即した体力の必要性を実感できる
打たれ強さも一つの技だということを体で感じることができる
防具なしフルコンのデメリット
怪我や事故の危険性が高い。
稽古において強者と弱者の環境格差がありすぎる。
強者は力をセーブした稽古にならざるを得ない 。
弱者は当面の危機を避けるのに心を奪われて、大局的な稽古ができない。
防具(従来の強度)着用のメリット
相手の怪我を心配せずにフルパワーの攻撃が可能。
攻撃をもらっても致命傷にならないので強い相手でも全力で攻撃できる。
カウンターを恐れずに不得意技を試すことができる。
体調が万全でなくても(例えば二日酔いの後)組手が可能。
防具(従来の強度)着用のデメリット
本来なら軽くても効く攻撃(水月や脾臓などの急所)を受けても痛みが伴わないのでやられた実感がない。
効く技の追求より体力に任せた攻撃になりやすい。
相手の出足を止めるためのカウンター攻撃やストッピングがやりにくい。
防具に慣れてしまうと防具無しの組手が不安になる。
要するにメリットデメリットは防具によって痛みを感じないことに集約される。
理想的なのは、攻撃を受けた場合に適度な痛みを伴うことである。
痛みがあれば、こういう攻撃を受けるということが実戦ではどのような意味を持つかということが直感的に分かる。
攻撃するほうも、効く攻撃というものが必ずしもフルパワーのものではない、つまりリラックスして出した突きなり蹴りがかえって相手にダメージを与えるものだということも分かる。
問題は痛みと安全性の兼ね合いということになる。
痛みというのは本来体の緊急信号であって、何らかの異常が発生したという合図なのである。
したがって、痛みを放置したり、過度の痛みを受けつづけることは体にとって決して良いことではない。
しかし、人間の体はシステムとして安全側にマージンがある。
つまり、実際はそれほどのダメージではなくても過度の信号を出す傾向があるのだ。
フルコン系の空手を2〜3年もやれば軽いコンタクトでは大して痛みを感じなくなるのは、こうしたマージンを体が覚えて過度の信号を出さなくなるためである。
いわゆる慣れというやつだ。
しかし、どんなに慣れていても本当に効く強力な攻撃をもらえば当然痛みもあるし、その痛みは痛みに応じたダメージを体に与えるものである。
このような慣れで耐えられる範囲を超えたもののダメージは防ぐべきである。
私は理想の防具は次のような要件を満たしたものだと考える
受けた攻撃に対して適度な痛みを感ずることができる事。
攻撃が本来の急所にタイミングよく入ればそれほど強い攻撃でなくてもそれなりの苦痛を相手に与えることができる事。
痛みは感ずるがそれが健康を害したり、骨折など体に故障や障害を与えない事。
着用することによって自由な体の動きを阻害しない事。
当てた感触が良い事。
今回の軽量防具はまだまだ欠点はあるがだいぶこれに近いものである。
特に上級者は痛みという点に関しては従来と大差がなかったのではないかと思う。
初心者にとってはまだハードルが高いので、安全性という観点から使用は限定的にする方針である。