ヒット カウンタ

歩くこと


空手において非常に大切な要素に歩くことがある。
歩くこと?

と疑問に思う方もいるであろう。
空手と歩くことのどこに関係があるのか。

空手の話の前に、歩くという動作を考えてみたい。
歩くということは特に足の不自由でない人なら毎日無意識で行っている動作である。

幼いときに覚えた後は一切の訓練なしで皆自由自在に歩いている。
それを難しい動作などと考えたことは一度もないはずだ。

そう、歩くことは誰だってできるやさしい動作なのだ。
と、思っていたらそれは大間違い。

一度倒れた老人が一旦ベッドにある期間寝かされて、それがきっかけで寝たきり老人になったという話はめずらしいことではない。
これは何も老人に限ったことではない。

若い人でも数週間も寝たきりの怪我などをすると、怪我が治っても急には歩けないことは経験した人なら皆覚えがあるはずだ。
実は歩くということはきはめて高度な動作であり、また絶え間無い訓練(日常生活が訓練になっている)を続けていなければすぐ忘れるというほど難しい技術なのだ。

我々は普段自分の歩くスタイルを意識することは稀だ。
殆どの人は自分の歩きかたは特に訓練をうけた人以外は小さいときからの自己流である。

歩き方を変えるということがいかに難しいかは、例えばファッションモデルの歩き方を真似してみれば分かる。

歩き方というのは武道の立場で言えば、運足法である。
自分の体を安定して立たせ、必要に応じて場所を速やかに移動させる方法のことである。

日常生活においては運足法は歩き方ということになるが、空手の場合は目的が自分の身体の移動にとどまらず相手への攻撃あるいは相手の攻撃からの退避動作と目的が広がる。
格闘という刻々と変化する状況の中で速やかに自分の身体を移動させる方法、運足法は、ただ単に歩くだけでも高度な技術なのだから、その何倍も高度な技術だということになる。

素人の喧嘩あるいは初心者同士の組み手を見ると総じて足がばたばたしている。
運動量は多いにもかかわらずスムーズな身体移動ができていない。

お互い距離がつかめず突きや蹴りが空を切ったり、近すぎてパワーが乗らないケースが殆どだ。
威力のある突きや蹴りは適切な距離(間合い)から放つことで実現できる。

そのためには状況に応じた迅速な身体移動が必要だ。
これが運足法つまり歩き方ということになる。

現空研では伝統的な運足法を教える移動稽古もさることながら、より実戦的な運足方法を私が体系的にまとめたものを教えている。
それは、自由組手あるいはより実戦的な戦いの場における即戦的な運足法である。

原理、及び基本は実にシンプルなものだが、それを完全に身に着けいかなる状況でもスムーズな身体移動が可能になるにはやはり相当の期間と経験が必要である。
入り口は簡単ではあるが完全に無意識に理想の運足ができるにはどんなに勘の良い人でも3年以上はかかると見ておいたほうが良い。

帯に色が着いた人は、この運足法をより意識して組手の水準を上げて欲しい。
心は明鏡止水のごとく、移動は歩くがごとく自然にスッと間合いに入れるあるい外せることが理想である。

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