1ランク上の空手
その2
技を覚え、体も鍛え、基本的な身体能力が十分アップしたにもかかわらず、スランプに陥ることがあります。
どんなに上手な人でも、何年も何十年も一回もスランプを経験しないで上達した人はいないと思います。
スランプの形は人それぞれです。
器用な人は始めてすぐぐんぐん上達しますがスランプも比較的早く訪れることが多いようです。
逆に、不器用な人はもともと毎日がスランプのようなものですから、スランプ自体にはなかなか陥らないのですが、それでもやはり経験します。
弱かった後輩が急に上達し、いままで簡単にきめていた技がかからなくなったり、受けられるようになるとそれがきっかけで自信を失ったり、どうかすると空手自体の興味を失うきっかけになることもあるようです。
道場の限られた人の中でだけ通用するような小手先の技が、ぜんぜん違うタイプの強い人にはねかえされて自信を失うといったようなケースもあります。
スランプというのはどちらかというと競技空手のように、常に相手との勝負にこだわるといった状況や環境でおきやすいのですが、自分を鍛える事が主眼の武道空手でも起きます。
スランプというのは本人の客観的な実力とはあまり関係ありません。
傍からみると、欠点なんか無いように見える名人でも、本人にとってはスランプ状態なんてことは全然珍しいことではありません。
スランプとは自分がスランプだと思った時がスランプなのです。
空手に限らないと思いますが、およそ何かの技術を身につけるには面白おかしい世界だけですませることはできません。
勿論楽しいことも多いのですが、つらいこともあります。
つらい時期をどのように克服し、それを楽しさに変えることができるかということが1ランク上に昇るカギなのです。
人によって違いますがスランプは数週間や数ヶ月といった単位のものから数年といった長いスパンのものまでいろいろあります。
上昇が停滞するだけならまだしも、下降していく(ように感ずる)こともあります。
たとえば、昔なら簡単に相手のふところに飛び込んで強烈な突きや蹴りを繰り出すことができたのに、最近どうも飛び込むタイミングがとれなくなった、とかカウンターを取られそうな気がして消極的になってしまうというようなことです。
これは、技術の向上する過程で必ずといっていいほどぶち当たる壁です。
これは本来の意味でのスランプではありません。
技術は逆に向上しているのです。
技術が身につき、相手の動きが読めるようになったため、強い相手と向かい合ったとき昔のようにがむしゃらな突っ込みができなくなってきたのです。
格闘技は常に相手がいるわけですから、強い弱いは相対的な問題です。
どんなに上達してももっと強い人とぶつかるとはねかえされてしまうのです。
ですから井の中の蛙のように限られた環境だけで自信を持っていたような人はちょっと手ごわい人にぶつかるだけで簡単に自信喪失状態になります。
一度もダウンしたことが無い人は生涯で最初のダウンというものは強烈に記憶に残ります。
中にはたった一度のダウンで格闘技の世界から足を洗う人もいるくらいです。
一度もダウンしたことが無い人というのは私に言わせれば強い人ではありません。
しいて言えば強いかもしれない人です。
何度もダウンした経験があり、そしてそれを克服してより高い位置に上り続けている人、
これが強い人です。
ダウンをスランプに置き換えて考えてみてください。
何度もスランプを経験し、その度にそれを克服してきた人、これが最強の人です。
あなたが向かい合う相手として考えてみてください。
倒しても倒しても起き上がってくるような人、これが一番怖い相手ではないですか。
勝利者とは、一度も倒れない人ではなく、倒れても倒れても起き上がってくる人を言うのです。
簡単に初段をとる人もいれば逆に10年以上かかる人もいます。
初段は簡単にとっても次のレベルになかなか行けない人もいます。
しかし、10年かかって黒帯を取った人は私は最強の一人だと思います。
なぜなら、その人はこれから先の10年も多分精進を続けるに違いなく、おそらくはあらゆるスランプの克服方をその人なりに身に着けているだろうからです。
一切のルールなしの戦い。
たぶんそれは人生そのものだと思いますが、それに勝利する人はおそらくこういう人だと私は思うのです。
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